メモと手元の紙袋とを見比べて、買い足さなければならないものの最終確認をとる。といっても毎回同じものを同じだけ購入しているから、これといって気をつけなければならないものも少ない。
それでもきちんと確認を怠らないのは、これは他でもない神子さまからのお使いだからだ。
「ん、よし。全部ある」
これが終わったらあとは神子さまのお部屋のお掃除と、ベランダの草木の水やり。お夕食のお手伝いも任されていたっけ。早くお屋敷に戻らないと、と踵を返したところでお城の門付近に立っていた男性と目が合う。その鳶色の髪と瞳には見覚えがあった。いや、見覚えなんて程度のものじゃない。彼はわたしを一瞥すると、そのまま背を向けて去って行った。
その後ろ姿が見えなくなるまで立ち尽くして、そしてわたしもお屋敷までの道を駆け出す。
「おっかえり〜、ちょっと遅かったな」
「すみません神子さま、途中で旅人に道を尋ねられたもので…」
「さすが俺さまのメイドちゃん!綺麗な上に優しいときた」
変わらない賛辞には曖昧に笑って見せて、手元の紙袋を神子さまへ手渡す。神子さまはそれを受け取るとわたしの手をも引いてお部屋へと歩き出した。
「み、神子さま?お部屋には後ほどお掃除に伺います、お手を…」
「いーからいーから、ちょっと休憩!な?」
有無を言わさぬ雰囲気にわたしはなにも言えずに、とうとう彼の部屋まで辿り着いてしまった。備え付けの椅子に座らされて、神子さまも正面に腰かけた。
「どうされたんです?」
「ん?いや〜、ゆっくり話したいなぁって思ってよ」
「神子さま、…あまりわたしのようなメイドに構うのは、」
「だめだっつーんだろ?…はあ、俺さま超ショック」
がくり、と大袈裟に肩を落とす神子さまは眉を下げて演技がかったポーズをとる。どうとも思ってないくせに。そこらの貴族のお嬢さまにだって、同じような接し方をするくせに。所詮、わたしのことなんてメイドとしか思っていないくせに。…それはわたしも、か。
「どうやったら俺のことちゃんと見てくれるわけ?」
「神子さま…」
「その神子さまっつーのも気に喰わないんだけどな」
一瞬だけ細められた瞳には温もりがなかった。ああ、何度か見たことがある。神子という肩書きを蔑むときにだけ見せる鋭い瞳だ。
「…も、いーや。飽きた」
「え?」
「飽きた」
「神子さま、」
「お前もそこらへんの奴らと変わんねぇ」
顔を背けると、それっきり神子さまはこっちを見てくれなくなってしまった。飽きた。それはつまり、わたしに対しての言葉だろう。おいたわしや神子さま。それでもわたしはあなたの傍にいなければならないのです。
これ以上ここにいても無意味だろう、と立ち上がる。それでもやっぱり神子さまは見向きもしなかった。失礼致します、と乾いた声でドアに手をかけると、ぽつりと名前を呼ばれたような気がした。だけど、わたしは振り返らなかった。
これでいい。どうせ彼は死ぬのだから。
しかし参ったな。わたしが買い出しに出ている間に、神子さま自らがお部屋の掃除と草木の水やりを済ませてしまっていたんだから。そんなにわたしが、お気に入りなのだろうか。おいたわしや、神子さま。
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