紅いアネモネ | ナノ
「もう!せめて3日に一度はお掃除してって言ってるのに!」
「うひゃ〜!そんな怒んなって!」
「水やりもサボったでしょう!枯れかけてたんだから!」
「今からするとこだったんだってばー!

わたしから逃げるように階段を駆け下りて行くゼロスの後ろ姿をため息を吐きながら見詰める。最近ようやく歩けるようになったけれどゼロスは相変わらずわたしにべったりだった。お掃除やその他のことはいつやってるんだろうと早くに疑問に思えばよかった。

ジョウロを引っ張り出して来て水を並々と注ぐ。水を撒くと草木は太陽の光りを反射してきらきらしていて、それがなんだか喜んでいるようにも見えた。

「な〜…名前まだ怒ってんの?」
「…別に」
「も〜!可愛い顔が台無しでしょーよ…」
「誰がさせてるんだか!」
「ごめんてば!俺も手伝うからさ〜、これ終わったらデートしようぜ!」
「…デート?」
「そ!俺と名前の初デート!」
「どこ行くつもりなの?」
「言ったろ?大樹見に行こうぜって」
「あ、そっか…!」
「俺らで幾分か周辺整理したからさ、怪我とかもしねーと思うし」

でひゃひゃひゃなんて独特の笑い方で新しいジョウロを引っ張り出してくるとゼロスも水やりを手伝ってくれた。
あ、もうちょっと愛情のあるやり方をしてくれるとありがたいんだけどね…!(部屋に飾ってある鉢には丁寧にやってるくせに)

そのとき、貴族の娘たち数人がゼロスを見つけて声をかけて来た。ああ、あのときの子たちかな。だけどわたしの姿を確認すると少し怪訝そうな目をする。わたしはもうメイドじゃないけれど、会釈くらいはするべきかと立ち上がると、それよりも前にゼロスがわたしの肩を抱いた。

「悪いね〜、今から俺さま、ハニーとデートだから」

じゃ!なんて言いながらわたしの手を掴んでゼロスが走り出す。え、ちょっと、わたし病み上がりなんですけど…!
少し走って彼女たちが見えなくなるとゼロスはその背にオレンジの羽を広げてわたしを横抱きに抱え上げた。

「ちょっと…!」
「走らせて悪かったな、大丈夫か?」
「ん、へいき。…このまま行くの?」
「そーだな、ついでにあいつらんとこでも寄ってお前のこと紹介してくっかな〜」

でひゃひゃ、と嬉しそうに笑うとゼロスはそのままわたしをぎゅっと抱いてスピードを少し上げた。悪戯っこのような、それでいて自信に充ち溢れた、とても彼らしい笑みだった。

END
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