紅いアネモネ | ナノ
温かな日差し、揺れるレースのカーテン。心地よい風がわたしの頬を掠めて、呼応するように瞼を開けた。深い深い眠りについていたような気がする。いや、でもほんの少しだったような。どっちだろう、わかんないな。

窓際に見知った後ろ姿がある。紅い、癖っ毛の長い髪。ああ、ゼロスさまだ。その手には鉢に移された一輪の、

「…アネモネ?」

掠れた声でも、彼には届いたようでその紅い髪を翻して彼がこちらを向く。太陽の光りでよく見えなかったけれど、やっぱり彼は泣きそうな顔をしていたのだと思う。
それからすぐに顔を背けて、ぐす、と鼻をすする音。

「…そ。俺さま花の手入れとかわっかんなくてさ〜、でもこうしてたらこいつだけはちゃんと咲かせてやれるっしょ?」

愛しげにその花びらを指で撫でる。窓から入って来た風に、アネモネと共に彼の紅い髪が揺れた。

「ゼロスさま、」
「お前、寝すぎ」
「…どれくらい?」
「一ヶ月を数えてやめた」

鉢を置き直すと、ゼロスさまが歩み寄って来る。ベッドの下に膝をつくと、わたしの顔を覗き込んで悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
ゼロスさま、とやっぱり掠れた声で呼ぶと乱れていた髪を掻き上げられる。ちゅ、と額にキスを落とされた。

「おかえり、名前」

だからわたしも、ただいまと返した。

「あれからな、お前が眠ってる間、ちゃんとミトスを倒したんだ」
「ミトス、を…」
「お前の仲間、だったんだよな」
「ええ。…わたしは彼を、きちんと導いてあげられなかった…」
「…そんで、新しい大樹が生まれたんだ。お前が元気になったら、見に行こうぜ」
「はい、」
「それまでは、お前の世話は俺がするから。掃除も買い出しも水やりもなんでも、な」
「ゼロスさま、」
「あ、それ」
「え?」
「ゼロスって呼んで」
「えっ、でも、」
「今日限りでお前はメイド辞め。今からお前は、俺の名前。わかったか?」
「そんな、強引な…」
「嫌なのかよ?」
「ふふ、いいえ」

相変わらずの子供っぽさに笑みを零すと、拗ねたような顔を見せたゼロスもおかしそうに笑った。
不思議だ。これがお互い死にかけてた人間とは思えない。
薄れゆく希望を手の平で包み込むと、こんなにも暖かな風になるなんて、知らなかった。
人はこれを、幸せだなんて呼ぶんだ。知らなかった。
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