紅いアネモネ | ナノ
「サンダーブレード!」

びりびりと巨大な魔術の剣が神子の上に降り注ぐ。それを間一髪で避けつつも詠唱を衝撃派でなぎ倒し態勢を立て直す。
1人でこの大人数を相手するにはひどく分が悪かったが、それでも彼の動きは目を瞠るものがある。剣を振り上げる仕草だけにも気品の良さが伺えるのだ。
それがまた皮肉でもあるのだが。

「今回復します!」
「っゼロス…!なにか訳があるんだろ…?!」
「まいったね…俺はただの半端者なのよ」

ちらり、と神子がわたしに視線を投げた。それを追って鳶色の髪の少年、ロイドもわたしを伺うように見た。わたしの動きが読めなくて警戒していることが手に取るようにわかった。そうか、彼があの人の。確かに面影はある。

「…楽しく暮らせりゃ、それでいい。それで、」

その唇が笑みを浮かべたような気がした。次いで魔術が飛ぶ。それは避け切れなかったようで苦しげに片膝をついてそれでも前を見据える。

「あいつが、それが命令だったってんならそれでもいいんだ、」

聞こえるか聞こえないかの声がまるで脳を揺さぶられるかのように届く。げほ、と血を吐くと早口に詠唱を完成させ、手を天へ翳す。紅い髪が揺れた。

「受けてみな。…ジャッジメント!」

まるで子供が親に、褒めてほしいがために尽くすような自慢げな表情でそれに似つかわしくない裁きの光が降り注ぐ。そうだ、これで終わりだとでも言わんばかりの、楽しそうな笑みで。光りの柱を掻い潜り駆けてくる鳶色には、安らかな視線さえ向けて。
彼が、わたしの名前を呼んだような気が、したの。

キインと耳障りな鉄の音が響いて、それと同時に裁きの光りは消えた。ああよかった、護身用に懐に忍ばせていたナイフが役に立った。ギリギリと少しでも気を抜けば力負けしてしまいそうなその剣で、彼を貫こうとしたんだ。そして彼も、それを望んだんだ。

「なっ…」

でもごめん、邪魔しちゃいました神子さま。


「神子を殺すのならまずわたしからどうぞ」

これが正しかったのかどうかわからない。だけどこの救いの塔に降り立ったときから、こうなるんじゃないかって気はしていた。あの人の言うとおり、情が移ったのだと言えばそれまでだけど。
わたしを自分と同じだと思って、だけどそれは違ったと悲しげに表情を歪めて泣いた彼を、わたしは。

「神子さま、もしもわたしが彼らに勝てたら、もう少し一緒に生きてみませんか」

なくしたくないって、思った。
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