▼ 高瀬

6限目の現国の時間、そろそろ上瞼と下瞼がキッスでもしそうなうららかな昼下がりだ。眠たい。昨晩の夜更かしが祟った…。でもここで素直に眠りに落ちるわけにはいかない(なぜならテストが近いから!)。
せめてもの抵抗としてマーカーペンを緩慢な動きで回す。

こんないい天気の日には、我が家の1番大きな窓の下で日光を浴びながらお昼寝でもしたいものです。

「 おい、 …おい名前寝んな」

暖かい日差し、頬を撫でる心地良い風。そして、準太の…

「おーい、寝たか?」
「(準太の声!) なっ、」
「ぷっ、 なっ、てなんだよ バァカ」

いつのまにか閉じられていた瞼が一瞬で見開き、視界いっぱいに準太が映る。あ、そうだ授業中だったんだ。

「やばい、…寝かけてた」
「いや、さっきのは完全寝てた」
「気持ちは起きてましたー」
「どうだか」
「もううるさい準太、前向きなよ」
 
悔しいのと恥かしいのとでわたしはツンとして黒板を見据える(よかった、黒板の文字はそんなに進んでいないようだ)。
改めてシャーペンを握り直そうとしたとき、指先をマーカーペンが擦り抜けていった(あ、寝ないように回してたんだった)。

軽い音を立てて黄色のマーカーペンが転がり、ちょうど準太の右足の横で止まった。
 
「準太、ペンとって。足元にあるから」
「ん、…あー はいはい」

準太が大きな身体を窮屈そうに折り曲げてペンに手を伸ばす(ぷ、なんか避難訓練中の小学生みたい)。せっかくペンを取ってもらっておいて笑うのは失礼なのですこし我慢。
元の態勢に戻った準太の手が伸びてきて、わたしもありがとう、と手を出す。

「ん、 どうぞ」
「さすが準太、やさし…ん、これなに?」

準太の手から渡ってきたのは、わたしのペンと見慣れないピンク色の小さな袋だった。店の名前がシンプルに印刷されたシールで封がしてある。

 
「やるよ」
「え、…今日、誕生日とかじゃないよ?」
「わかってる。ただあげたいと思っただけ」
 
そう答えると準太は口元をへの字に曲げて前を向いてしまった(どういう風の吹きまわしだろう?)。
つき返す理由も特にないので受け取った袋をポケットにしまった。

(今、開封したいと思わなかったのは照れ臭かったから と、なんだかもったいないような気がしたから だ)

早くお風呂入っちゃいなさい、と母さんの声がドア越しに聞こえて、わたしは読んでいたマンガをパタンと閉じた。もう時刻は9時を回っている。準太はそろそろ家に着くくらいだろうか?

「あ、準太といえば」

スカートのポケットにゆっくり手を入れ中身を確かめるように引き抜く。6時間目、眠たくて仕方ない現国のときに準太に手渡された可愛いピンクの袋。

(あげたいと思っただけ、…って)
(準太が、わたしのために、?)

パッと準太の顔が浮かぶ。妙な気恥ずかしさに不覚にも頬が赤らむ。
 
(準太はともだち、…けど)
 
震える指先でそっとシールを剥がし、覗き込む。中身はシンプルに装飾された可愛らしいピン留めだった。

(あ、明日付けてった方がいいかな、)

しばらくそのピンを眺めていたとき、不意に袋の中に4つに折り畳まれた小さいメモ用紙を見つけた。手紙だろうか?ちょうど真ん中の辺りに、いつも見る準太の字が綴られている。

( す、…えっ ええ!)
 
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