▼ 高瀬

変わらない金曜日は、ずっと金曜日のままだ。わたしが幾等願ったところで、それはきっと生涯変わることはないのだろう。それを知っているからわたしは往生際が悪くなったりするし、嬉しくもなったりするんだろう。

「じゅんた、帰ろう」

今日も頬に少し砂をつけた準太をグラウンドまで迎えに行って、熱い夕焼けを背中に受けていた。もう夏も終わる。けれどまだ涼しさを感じない、何気ない放課後だった。わたしは苦手な数学の課題を少しでも減らそうと、準太の部活が終わるまで図書室に篭っていたけれど結局意味はなかった。今晩は徹夜になりそうだ。
(まあ、そんなこといっても寝ちゃうんだろうけど)

「ん、ああ。おまたせ 名前」

軽く笑って、準太は部活用の鞄を肩から提げた。わたしはそんな準太を見上げて歩き出す。後ろでりおくんが先輩たちさよなら!って叫ぶから、手を振った。
準太は少し恥かしそうに笑んでいた。

「乗る?」

自転車置き場まで黙ったままの準太はハンドルを握ってわたしにそう聞いた。けれどわたしは首を横に振る。なんだか今日はゆっくり歩いて帰りたい気分だった。
準太が疲れているかも知れないと思ったのでチラ、と彼を見上げると、俺も今日はそうしたい気分だったと囁いてくれた。
今日は少し、特別な日のように感じた。なんだか不思議な気持ちだった。準太に、別れようといったらどうするかを聞いてみたくなった。まるで世界が優しく終わってゆくような静けさだった。
今日は今日しかない気が、いつもより強くした。

「名前、 別れようっていったらどうする?」

わたしの家の近くの曲がり角の前の信号で立ち止まったときに、準太がいった。目の前を通ってゆくトラックに掻き消されてしまいそうな音量だった。
どこか遠くの方でセミが忙しなく鳴いていた。

「今ね、わたしも聞こうと思った」

ここの信号は長いんだった。後ろを駆けていく小学生の鮮やかな黒と赤のランドセルに視線をやりながら汗を拭う。きっと寄り道でもしてたんだろうな。手には色取り取りのカプセルが大事そうに握られていた。
 
「んーで、 どうすんの?」
「さあ。でも今日が特別な日になるんだろうなって思う」
「ん、それは俺も思った」

に、と子供のように笑った準太が少し屈んでわたしの唇を軽く指でなぞってからキスをした。一瞬だけ汗ばんだ頬と頬が触れ合う。準太はキスするとき、ぜったいに目を瞑らない。それを知っているのは、わたしも目を瞑らないからだ。

信号が青になって、準太は片手でわたしの手を引いて歩き出した。歩きにくくないの、と聞いても準太は上手くはぐらかす。終いには、名前が手ぇ繋いで欲しそうな顔してるからなんていうから。

(そんな顔の作り方なんて知らないけど、準太が見抜いてしまっているからきっと出来てるんだろう)

「もしも別れたら、きっと毎週金曜日は特別な日になるね」
「たぶん、金曜の太陽だけバカみたいに眩しいんじゃねーの」
「ねえ、その特別な日 作ってみよっか」


アスファルトを蹴るのは、わたしのローファーだけになったので不思議に思って準太を振り返るととても泣きそうな顔をしていた(泣きそう、というか眩しすぎる太陽に瞳を強く細めるような感じだった)。

わたしは堪らず準太に歩み寄り覗き込む。準太は道の脇に自転車を止めると、わたしを両手で強く抱きしめた。少し砂っぽい制服におでこを押しつけられてしまったので軽く目を瞑る。

「そんなのまだでいいだろ、」
「うん、…準太、泣きそうな顔してるもんね」
「…ばっか、夕日が眩しいんだよ」

沈む夕日が太陽だった頃
(お昼休みのときも準太、おんなじこといってたよ)
(ばっか、太陽が眩しいんだよって)

(でも準太気付いてないよね、こうやって特別な日が生まれることを)
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