▼ 高瀬

ぐ、と腕を掴まれ走りだそうとした方向と反対にわたしは引っ張られた。ものすごい力だ。きっとわたしのことなんて考えずに引っ張ったに違いない。
溢れ零れる涙を拭うことも出来ず、けれどそのまま振り返るのも悔しいので懸命に俯いていた。つま先の方に涙が飛んで行くのが見える。視界がぼんやりとする中で次第に周りの音が聞こえてくるようになった。
後ろで、準太の荒い息遣いが届いた。

「行くなよ、 別れるなんて言う な」

放課後のグラウンド。埃っぽい土の匂い。身体中がじんわりと汗ばむのがわかる。陽に灼けた肌がチリチリと痛い。それと同じくらい掴まれた手首が痛かった。耳元で脈打つ自分の鼓動がわかった。

「離して」
「いやだ」
「離してよ、ばかっ、」

勢いをつけて振り解こうとしてもムダだった。さすが鍛えているだけのことはある。準太の大きい手の平はビクともしなかった(それが余計に悔しいのに)。
 
「じゃあ別れるなんて言うなよ!」

シン、と水を打ったようだった。いや、その表現は少し可笑しいか。この場にいるのはわたしと準太だけだから(でもそう感じてしまうくらい、辺りの音は一瞬にしてなくなったのだ)。
準太はわたしをきつく睨み付けながら言った。わたしは呆気に取られて準太を見上げた。準太のこめかみの方を汗が一筋流れて行った。胸がドキドキと五月蝿い。
わたしはさっき準太に別れを切り出して(情けのないことに言い逃げで)もう終わった気満々だったというのに、まだ脳は準太との永遠を望んでいるというのか。

本気で逃げようと思えば、
(例えばスネでも蹴り上げれば)

きっと逃げられる。
(例えば泣き叫べば)

準太は、逃がしてくれる。
(それなのにわたしは、)

「準太は、 バカだよ」
「そうだよ、知ってる」
「どうしてこんなこと…、ばか…」

いつまでもわたしの手を離そうとしない。こみ上げてくる涙が汗と交わりながら頬を伝い落ちた(わたしはとても卑怯だ)。
準太が追いかけてくれることを、

本当は知っていたの
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