▼ 阿部

余りにも阿部くんが自然に、組み敷いたわたしの制服の第一ボタンを外してしまうものだから少し呆気に取られてしまった。
…というか、この状況はなんだ?
(薄暗い教室で、彼が部活から帰ってくるのを待ってるまではよかったのに)
…どうしてこんなに手際が良いんだ?
(これが1番知りたいようで知りたくないこと)

って、そんなこと考えてる場合じゃないよね、?!

「ああああべくんタンマ!」
「…なんスか」

今だわたしの胸元にある阿部くんの手を必死に押し返す(さすが運動部でそして男の子…!力の差が違う)(彼の方が年下なのに手加減されているように感じるのは気のせいじゃないはず)。
阿部くんは心底つまらなさそうに眉間に皺を寄せて息を吐いた(あ、今少しセクシーだったかも)。

「どういう理由でこうなってるのかを知りたいよ、阿部くん」
「教えたら続きしてもいいんスか?」
「(どうしてそうなる!)ダメです」
 
ちぇーと唇を寄せると阿部くんはようやくわたしの上から退いた。わたしは痛くなった背中を庇いつつ鞄を持ち上げる(ああこれで家に帰れるのね!)。
外はもう真っ暗で校庭には部活帰りの生徒がチラホラと見えるのみだ。今だ緩慢な動きでわたしをじっとりと見つめる阿部くんの腕を取って教室を出た。

真夏がもうそこまで来ている、なんでもない蒸し暑い夜。
それでもこうやって阿部くんの隣を歩けるのなら、例え相手をしてもらえなくても彼が一生懸命部活に励んでいる時間は暇だとは思わなかった。

「先輩、軽くなった?」

阿部くんの自転車の荷台に腰を下ろしたときだった。阿部くんはそういうなりわたしの二の腕を軽く掴んだ。わたしは突然のことに驚いてしまって、ただただ彼の顔を見つめた。

「名前先輩?」
「え、…あ。うん、まぁ少し」
「やっぱり」
「でもホントに少しだよ」
「それでもわかるよ」

照れてしまったのか、そのまま阿部くんは自転車を走らせてしまったので表情は見えなかった。わたしは目の前の背中にぎゅっとしがみつく。阿部くんもわたしのこと、少しは見てくれてるんだなぁと思ってみたりして。

「名前先輩は、夏ばてとかするほうスか?」
「うーん…そのときによるかなぁ」
「ふうん」

普段のわたしなら自分から聞いておいてと思うような返答だったけれど、そのときの阿部くんの声色が余りにも優しいものだったので嬉しくてつい、気付かれないように笑ってしまった。
まだ遊びたい年頃(わたしもそんなに変わらないけど)に部活が忙しいのに、わたしの体調気遣ってくれてるんだね。

「阿部くんがいてくれたら大丈夫だと思うよ」
「 そースか」

(あ、今のぜったい照れた)



「夏ばてに負けないように今から体力作っとかないと」

そういったときの阿部くんのあの輝かしい笑顔を、わたしは生涯忘れないだろう(ああやっぱり遊びたい年頃の男の子だわ…!)。
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テーマ「人外ファンタジー」
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