▼ ティキ

「ティキ、…ティキ」

呟きながら次々に開けて行くドアの向こうに彼はいない。わずかにあった期待がふわっと摘み取られる感覚を何度か味わって、わたしはとうとう無表情で屋敷の玄関のドアを開けた。やっぱり彼はいない。ここが最後だったのに。わたしはここから出られない。伯爵に止められてるから。わたしはこの、伯爵のお屋敷から一歩も出ちゃいけないんだって。
ちら、と目配せすればわたしを監視するようにアクマがひょっこり顔を覗かせていて。無気力に息を吐いた。あーあ、つまんない。伯爵がわたしのこと心配してくれてるのはわかってるつもりだけど、わたしだって外に出たいの。ロードの巻き戻しの街の話しとかジャスデビのクロス探しの旅とか、すっごく楽しそうなのに。

ドアをがちゃりと閉めて手前の螺旋階段を駆け上がった。もしかしたらクローゼットの中かもしれない!だってあそこはまだ開けていないもの。ドレスの裾がさわさわと揺れる。長く赤い絨毯を臨んで一歩踏み出そう、そうしたときだ。名前を呼ばれた気がして振り返る。でも見えるのはシャンデリアだけ。すぐに手すりに駆け寄って下を覗き込んで見る。

「ティキ!」

玄関のところにシルクハットで会釈するティキがにっこり笑う。ここから飛び降りたい衝動を懸命に抑えて、わたしは駆け上がったばかりの螺旋階段をさっきよりも早く駆け降りた。

「ティキ!また女の人のところに行ってたの?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、名前。伯爵のお使いだよ」
「そうなの?どうだった?」
「ああまあ、滞りなくってやつ?」
「とどこおりってなに?」
「さあ?とりあえずうまくいったってことだよ」
「ふうん、じゃあもう遊べるの?」
「あー パス。俺疲れてるから」
「えー…じゃあなんでわたしの肩、抱くの?」
「ん?いや、俺の帰り待っててくれたみたいだから」
「だから?」
「ベッドの上でだったら遊んでやっても構わねえよ?」
「やだー ベッドの上だったらティキ寝ちゃうじゃん!かくれんぼしようよー」
「疲れてんだっつの。でもベッドの上でなら、お前の方が先にダウンすると思うけど?」
「ぜったい ない!」
「はいはい。さ、行こうか」

わたしが彼を求めて開けたのは彼の部屋のドアでもバスルームのドアでもトイレのドアでも玄関でも、ましてやクローゼットでもなかった。

Bed Love
(ねえ、ティキと天井しか見えないこの遊び なんて言うの?)
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