▼ ティキ

まるであなたをわたし自身で包み込んでしまうかのように、それはぜんぜん簡単なことで。突然のわたしの行動にティキは驚いたように目を少しだけ見開いたけど、構わずじわじわと力を込めてゆく。
ティキのしなやかな首に、食い込むそれは、

愛を契ったゆび

「…なに、まさか殺す気?」

読んでいた本を膝に置いて、ティキは軽く息を吐いた。覆い被さるように上に乗るわたしを見上げたまま、ピクリとも動かない。
わたしは、これ以上いうことを聞かず力の入らない指の代わりにぐ、と爪を立てた。ティキの眉がほんの少し、歪む。それが嬉しくて、わたしの口角は緩く上がった。
(ああこんなに、愛しているのに)

「名前?」


例えばこのまま、時が許す限りこうしていられたら、わたしは迷うことなくティキを殺すだろう(じわじわと、きっと苦しませながら)。頭ではそう考えられるのに、現実ってホントに冷たくて固い。
ねえ、神さま。いつになったらわたしの指に力を込めてくれるの?

「名前、 オレ死んじまうよ」
「いやだ」
「じゃあ離して。苦しい」
 
睨むように見上げてくるティキに、負けじと瞳をかち合わせる。でも、勝ち目なんてないの知ってるから、わたしはゆるゆると緩慢な動作でティキの首から指を離した。チラリと見た首筋には、くっきりと爪の痕が残っている。それが哀しくて、わたしは目を細めた。

(ああこんなに、愛しているのに)
(それと同じくらいに、)

「名前、どうした?」
「ううん、なんでもない」
「寂しいのか?」

ティキの手が腰に回されて、わたしは彼の方に引き寄せられる。わたしは思うように動けず、そのまま冷たく固くなり、身を任せる。
たった今、最愛の人を自ら手に掛けようとしたのに、涙どころか動揺さえ浮かばないなんて。
あなたがもしも他の誰かに殺されるようなことがあると困るから、どうせならわたしの手で逝かせてあげられないかなと思ったの。

(そんな遊戯みたいなこと言ったら、あなたの、)


を契ったゆび
(それはきっともう、わたしとは結ばれないのでしょう)
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