▼ ↑ティキ

「ねぇ、名前〜」

昼下がり、ドアからひょっこり顔を覗かせたのはロードだった。いつものようなニヒルな笑みを浮かべて、ソファで寛ぐわたしの隣へ歩み寄る。

「ロード?どうしたの?」
「あのねぇ、宿題が終わらないから手伝ってほしいなぁって思ってぇ。名前、今ヒマぁ?」
「え、わたしでいいならぜんぜん…っていうか、伯爵やティキは?みんないないの?」
「千年公は知らないよぉ。ティッキーは朝早くからどっか行っちゃったみたいだしぃ」
「 そう、なら仕方ないわね」
「まぁ、ティッキーには最初から期待してないよぉ…それに、」
「、それに?」

「ティッキーは僕なんかより名前の方が大切みたいだからねぇ」

(どういうこと?)


問う気にはなれなかった。ロードが余りにも深い笑みを見せたからだ。わたしは少し眉間に皺を寄せつつも、彼女が宿題を広げている部屋へと向かった。

暖炉にくべた薪がパチパチと鳴る、薄暗い部屋。丸い机を取り囲むように並べられた椅子にロードと隣同士で座った。

マリオネット

「早くこんな戦争終わらせて、そのときは一緒に―…」

あのとき彼が嬉しそうに笑ってそういってくれた。わたしを、ノアだとは知らないエクソシストの彼が。
彼はいつもボロボロだった。
任務だから、と約束を破ることも多々あった。
けれどわたしは彼が好きだった。彼もわたしを好きだといってくれた。この戦争が終わったら一緒になる、と。
彼をボロボロにするのも、危険な任務に駆り出させるのも、この戦争の敵であるのも、ぜんぶぜんぶわたしたち ノア であるのに。
ああ、わたしいつからこんな風に ノア であることを、


「ねえ、名前?ダイジョーブ?」
「、あ、ごめんロード、どうしたの?」
「ううん、なんか名前が難しい顔してるからさぁ〜。せっかく可愛いのにそんな顔してたらティッキーみたいになっちゃうよぉ?」
「え、ティキ?どうして?」
「ティッキーも難しい顔してたんだぁ」

頬杖をつきながら、ロードはニィと笑ってみせた。それから指先でペンをクルクルと器用に回してみせる。わたしは身体が凍り付いたように動かなくなって、ロードをただただ見つめる。ロードはやはり笑ったまま。

「ティッキーはね、名前が大好きなんだよぉ。だって僕たち家族だもん」
「…ロード、ごめんね、わたし行かなくちゃいけない」
「どぉして?いいじゃん、ティッキーに任せておけばダイジョーブだよ?」
「ごめん、 ごめんねロード」

席を立ったわたしを、ロードは無理矢理引きとめようとはしなかった。あからさまに不満そうな表情を浮かべていたけれど、すぐにニッといつものように笑って、じゃあ帰って来たらまた宿題手伝ってね、と呟いた。

「わかってるよな?お前はオレら、ノアの一族だってこと」
(ああ、どうして)

「ティッキーは僕なんかより名前の方が大切みたいだからねぇ」
(どうしてすぐに、)

「早くこんな戦争終わらせて、そのときは一緒に―…」
(気付かなかったんだろう)


「ねえ、ティッキーいってたよリリイ。名前には殺せない奴がいるんでしょぉ?」

ああ神さま
(この場合、どっちの神さまに祈ればいいんだろう?)
お願いだから彼を止めて下さい。悪いのはぜんぶわたしです。わかっていて優しいエクソシストに近付いたのはわたしです。間違っていると知りつつもティキに行動を起こさせるまで放っておいたわたしがぜんぶ悪いのです。
だからどうか、どうかお願いだから…!


「バイバイ」
(ああ、神さま)
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