▼ ライ

オッドアイの瞳に真正面から見据えられ、わたしはとうとう何も言えなくなってしまった。言おうと唇を開いても声が出ない、声を出そうにも脳からの信号がでない。悪足掻きのように視線を右斜め下に向ける。これではまるでわたしが彼に降参したことを認めるようではないか。

「な、諦めてアイクのところに行こう」

勤めて優しい声で彼、ライは言った。赤子をあやすような正真正銘の猫なで声。悔しくなって唇を噛み締めるとライの細くて長い指がわたしの指を絡め取った。驚きの余り空気を飲で視線を上げる。
ライは変わらず困ったように微笑んだままわたしの手を握り直した。

「 い、やよ」

何を意固地になっているんだろう。目の前の、だんだん悲しそうになっていく微笑をチラリと盗み見ながら妙にすっきりした頭の中で考えた。ライの温かい指がするすると這い上がってゆき、時期にある個所に触れてわたしは咄嗟に腕を引っこ抜いた。

「い…っ」

驚きと、不意に溢れる涙を堪えたために瞳が見開かれた。全身の毛が逆立つような鋭い痛み。それを負った瞬間の出来事がわたしの脳裏を一瞬過り翳めた。日光を浴びて鈍く光る鉄の、塊――

「もうこれじゃ前線には出られないだろ」
「で、でも…我慢できる」

まだ反論しようとするのか、と言いた気な表情でライは一瞬悲しそうに笑ってみせた。それからもう一度するするとライの指がわたしの腕を掴む。
(痛い、! )

考える前に腕がライを振り払った。今度は冷や汗までがわたしの背筋をひんやりとさせる。小さい呼吸を繰り返して、わたしの瞳からとうとう涙が一筋零れた。

「ご、ごめんなさい…でもっ、わたしだって戦える…!」
「うん、それは近くにいた俺もよおく知ってる」
「これくらい平気だから、 まだライの傍で戦いたい よ、」

前屈みに俯くとそっと肩にライの手が添えられた。耳の後ろ側にライの呼吸を感じる。こんなに近くにいるのに、たったこんな小さな線を身体に負っただけでもうわたしは、ライの傍で生きる理由を行使でないのか。レテやモウディの力にはなれない、のか。

「わたしまだ、ここにいて、一緒にいて、戦いたい」
「聞き分けてくれ。ムリに前線に出して、お前に怪我させたら事だろ」
「……それ、わたしの、ため?」
「違うよ。俺のため。俺が、お前にこれ以上怪我してほしくないんだよ」

わかるだろ?と小さい声が耳元で囁かれる。ずるい。こんな風にされてしまえばもう、わたしには抵抗する術なんて有りはしないというのに。
 
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