▼ カカシ
じめじめした昼下がりだ。気分にも湿気がまとわりついてきてその湿っぽさにイライラしたりなんかして。身体重いなあ。頭痛いなあ。なんか熱っぽいなあ。わたしこのまま溶けて死ぬのかも。
そこまで考えて笑ってしまった。さすがにないよね、溶けるなんてそんな、幼稚な表現。
でも死んだら。わたしが死んだら。
昔死んだ友人の埋葬現場を思い返す。靄のかかった、薄情にも曖昧な記憶。
ああ、あの日も生暖かな雨が降っていたっけな。
(うあ、)
思い出して悲しみが込み上げてきた。もっともっと優しくしてあげれば良かった、なんて考えてやめる。死ぬから優しくしてあげるなんてそんなのやっぱり失礼だし幼稚だけど。でも、もう会えないなんて、思ったこともなかった。
少し泣こう。部屋には誰もいないし、呼び出しがあればすぐに無表情貼りつけてやる。わたしだって戦う忍びなのだから。
だから今だけ、今だけは少し。この気候のせいにして。
(あいつにも少し、優しくしてあげたいなんて思ったのもきっと)
「あらら、お取り込み中?」
「……うわあ空気読めよ」
「お前なに?泣いてんの?」
「ちょ、来なくていいから」
あろうことか、涙が一粒ぽろりと零れたとき、窓からカカシが入ってきた(窓のが楽だから開けとけって)(玄関開けっぱは怒るくせに!)。
わたしに触れようとそのしなやかに逞しい腕が伸びてくる。最悪だ。涙流してぽかんとした顔見られた。指先を手でぱちんと弾いて背を向ける。
「なんでもないから」
カカシは答えなかった。なにか言われるかと思ったから少し気まずい。なんかわたし幼稚すぎる…!恥ずかしさも手伝って潤む目じりを乱暴に拭ってベッドにダイヴ。このまま無視していれば勝手に帰ってくれるだろうと思った。
だけど違って。
「空気読めなくてごめん」
「、ほ ほんとに、ね」
「けど1人にしたくないんだよね」
「わたしはっ…1人が いい、」
「俺、空気読めないしお前の望むこともわかんないよ。だから俺がしたいようにする」
「は、…い、意味わかんない…!バカカシ!」
「うん、バカだよねえ俺」
顔を上げたらカカシは嫌になるくらいにこーっと笑っていて。躍起になってる自分がバカみたいだと毒気が抜かれる。むかつくので盛大なため息をお見舞いしてみても、カカシはただ優しく笑ってるだけ。
「だってお前のこと、なーんも知らないからさ。教えてよ?」
「やだ」
「なんでよ」
「やだから」
「素直じゃないね」
「うるさい。湿気に拍車がかかるので静かにしていて下さい」
「はいはい、わかりましたよ」
むかつくのむかつくの。だってずっと楽しそうに笑ってるんだもの。なんの余裕か知らないけど、終いに追い出すから!なんて怒ってもにまーっとしちゃって。
「機嫌直しなさいよ」
「カカシがいなくなればね」
「なんで泣いてたの」
「カカシに関係ない」
「ほんっと素直じゃないね、お前は」
「、いいでしょ!」
「うそうそ。可愛いよ」
「は?!」
「愛してる」
「ば、ばかあ!」
全知全能の上忍さま
(カカシのうそつき!)
(わたしのことわかんないなんて)
(あるわけないじゃん)