▼ カカシ

冴えてしまった目を閉じるでもなくただ時間が過ぎるのを待っていた。朝方は冷え込む。布団を肩まで引っ張り上げるとふいに後ろから抱きすくめられた。寝ぼけているのかもしれない。んん、とくぐもった声で唸るカカシが耳の辺りに唇を擦り寄せてきた。一瞬にして空気が丸くなったのがわかる。

「……、」

息を吸い込んで、回ってきたカカシの腕に手を這わせる。他人のぬくもりがわかる。無機物でない、わたし以外の人間のぬくもりが。わたし以外の人間がここにいて、傍にいて、わたしに触れているのだ。

嗚咽が漏れそうになって、息苦しさに瞳を伏せた。まもなくして目じりから一滴の涙が零れる。
どうして幸せになることに、わたしは戸惑いと負い目を感じているのか?
答えは簡単だ。わたしがそれを安易に受け入れてよい人間ではないから。

「名前」
「…っ、ふ、ぅ」

(ああダメだダメだダメ、)

「名前、」
「ごめ、…なんでも、ない…」
「なんかある夜はぜったいにそっち向いて寝るの、知ってるよ 俺」

一層ぎゅっと抱きしめられて、それが脳に伝達されて苦しさで咽そうになる。
(ああなんだこれ、まるで酸素が行き届いていないような)

身を裂かれるような痛みではない。思いきり殴られた衝撃でもない。内側からじわじわと締め付けるようにして伝わってくるこれは、

「大丈夫。朝になったら隠れるんだ、朝が隠してくれるんだ、そういうのは」
「カカシ…」
「そういうのは誰にだって目につくもんなんだ。ただ名前は、それを馬鹿正直に拾っちゃうもんだから。でもいいんだよ、お前はその分誰よりもお前らしくなってくんだ」
「わかんない…カカシの言ってること、わかんない…っ」
「いいんだよ、それで。俺はお前が好きだよ。そういう、どうしようもないとこも特に、好きなんだ」
「い、や…いやだよ、抱きしめて撫でてあげればそれでいいって思ってるんでしょ、そんなのヤだ…っ」
「名前だって知ってるくせに。俺にはそれしか出来ないって知ってるくせに」
「知らない、知らない…!」
「人間ってさ、すっごいちっさい穴が空いてるんだよ。目に見えないような穴が。だからこうやって抱きしめても、本当には触れられないんだ、俺たちは。でもそれでも俺はお前を抱くよ、飽きもせず」
「じゃあ埋めてよ、その穴、カカシが埋めて」
「ムチャ言うね、お前は。…ま、そのくらいの誠意で愛してくつもりだけどね?」

だから今はおやすみ、そういってカカシはわたしの耳に唇を寄せた。悲しい夜は白々しい朝が隠してくれる。戸惑いも負い目も、瞳を伏せたくなるようなわだかまりも。すべて一時の夢と知りながら、わたしたちは悲しみを朝に託すのだ。

(ああなんて愚かなんだろう)
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