▼ カカシ

泡になって消えてしまいたいと思った。
任務とは言え、他人の命を奪った日の夜はいつもこうだ。怖くて震える。俯いて歯を食い縛って、キッと目線を上げてもだめなのだ。次の瞬間には闇に飲まれてしまいそうで。

「名前は暗部になっても名前だね」

わたしの髪に、撫でるというよりも撫でつけるように手を這わせるカカシ先輩はマスクの下から呟いた。
まるでひとりごとのよう。ここにわたしなんていないかのよう。目線もどこを捉えているのかわからない。
ただ漠然と、彼の手がわたしを擦った。くすぐったくはない。ただ他人が触っている感触がする。気持ちいいのか悪いのかさえ今の思考回路では判断できそうもなくて。

わたしはただ小さく息を吸った。重い空気だと思った。
でも吸わなければならない。他でもない、生きるために。

「こんなに小さいのに、大変だね」
「カカシ先輩、わたし任務なのでそろそろ行きます」
「そっかそっか。現役暗部は大変だね」
「カカシ先輩、手、を、放して下さい」
「そうだね、任務行かなきゃだもんね」

いっそ目なんてなくなればいいのに。耳だって要らない。言葉だって本当は欲しくないんだよ。

「けどさあ、こんなお前を放っておけるわけないでしょ?」
「任務に遅れてしまいます。放して下さい」
「カカシ先輩に拘束されてましたって言えばいいよ」

叩きつけても叩きつけてもあなたは深海の砂のようにわたしをただ優しく吸収するだけ。
わたしはただ重く圧し掛かる重力に沿うようにあなたに横たわって、ただ死ぬのを待つの。あなたの上を駆け巡りながら、結局あなたから逃れられないことを、わたしは一体いつ知るの。

「要りません、お願いですから 放して下さい」
「お前が要らないのなら、お前を頂戴よ。それでひとつになろう」

ね、なんて右しか見えない瞳で笑ってみせる。

「わたしは、」
「それでも要りませんって言うなら、一緒に、2人で、生きよう」



(目と口と耳と、 それから)
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