▼ カカシ

「あのねえ 名前、」

ショーケースの中の洋服に気を取られていたらふいに左手を握られた。
なあに?と顔を上げると困ったような笑みを浮かべたカカシがいる。あのねえ、なんて言いながら頬を掻いたりなんかして。

「止まるならそう言ってヨ。いないから焦ったでしょ?」
「あ、ごめんなさい…」

まあいいけどね、なんて柔らかく微笑む表情には安堵が見える。
久しぶりにお互いの休みが重なったのでどこか買い物に行こう、と誘われたのはつい先日前。
柄にもなく張り切るわたしにカカシは笑ったけど、カカシだってわたしと同じくらい楽しみにしてたこと知ってるよ。慣れない早起きして、いつもの慰霊碑にも立ち寄って、わたしを迎えに来てくれたんだもんね。

「餡蜜でも奢るって言われたらホイホイついていきそうなおまえが心配だヨ」

左手を引かれて歩くこの道が好きだ。カカシと通るこの道が、大好き。前を行く背中を見つめながら幸せを咀嚼する。

この背中がなくなってしまうなんていやだ。わたしはずっとこうやってカカシと共に歩く。誰がなんて言ったってこれだけは譲れない。

カカシだってきっとそう。わたしがさっきみたいに立ち止まったり迷ったりしたらそうやって手を引いてくれるよね?わたしの指はあなたのその優しい手を覚えているよ。

「大丈夫だよ。カカシにしかついて行かないから」
「かわいーこと言うねえ」
「バカにしてるけど本当だからね?」
「バカになんかしてないよ。本当にかわいーって思ってる」

そのまま俺にずっとずっとついてきてネ、なんて。
照れ臭くていえない返事は、そっと握り返す手に込めて。

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