▼ カカシ
そういう風に触れられるのはわたし、好きじゃないって知ってるくせに。
ふ、と指が伸びてきて耳の辺りを撫でた。冷たい氷のようなそれが撫でるように少し這ってすぐに離れてしまう。
だからそういう目も、わたしは嫌いなんだってば。
「ねえ、別れる?」
そう聞いたのはカカシだったはずなのに。予感していたけれど予想外の衝撃に身を焦がす思いだったわたしよりも、ねえどうしてそんな顔したりするの。
むしゃくしゃした夜は乱暴に抱いたりするのに、朝は酷く優しいあなたが好き。けどそうやって、怯えたように触れられるのは心底嫌い。だってふとした瞬間に、思い出してしまいそうだから。
「別れたくないって、いってヨ名前」
懇願するような瞳に諦めを被せて見せるのは癖なの?それとも態と?わたしを混乱させて楽しい?ほんとの気持ち隠しながらそうやってチラつかせて、ねえアナタの本心ってどこにあるの?
「すき、」
囁くと普段隠されているカカシの口元が動いた。情けない表情でわたしを見下ろしてくる。頭を支えられてそっと横倒しにされた。1度おでこがくっつくくらいに密着して、ぎゅっと目を瞑った。
間違ったことなんていってない。でも半分諦めたような気持ちでいたのも、ほんとう。
「俺、どうして名前なのかわかんないんだよね」
「カカシ…」
「けど時々握り締め過ぎて潰しちゃうかもって、思うんだよね」
「わたし潰れないよ。そんなにヤワじゃないもん…知ってるでしょ?」
「うん、 けど…けど不安なんだ、ずっと」
「カ、 カシ…っ」
「なんで名前が泣くのよ、…可愛いネ」
小さい酸素が幾つも幾つも喉で詰まって上手く言葉が出てこない。苦しいよ。深い深い海に抱かれているみたい。これからどんどん底の方へ沈んでいくみたい。ああ苦しい、カカシ。
カカシの冷たい指が目尻を撫でる。熱いくらいの涙の温もりを奪うように何度も何度も優しく。
「こんな俺はキライ?」
違う、 違う嫌いなんかじゃないよ
わかってるのにまたそうやって聞くのね
薄氷を踏む
「俺なんかと一緒になるんじゃなかったって思わせちゃうくらい、お前のこと潰すかもしれない」
顔も見ずに耳元で囁かれた声が合図かのように、カカシに掬ってもらえなかった涙が一筋落ちた。