▼ カカシ
何年も片思い、とかだったわけじゃない。けど優しいところとかさり気無い気遣いだとか、ほんとにほんとに好きだったのに。
「ごめん、君とは付き合えない」
ああその一言でわたしの気持ちみんな砕けてしまった。見上げた先の彼は心底申し訳なさそうにしていて、その困ったような笑みでさえもわたしの胸をぎゅっと締め付けた。
「あの、理由、聞いてもいいですか」
自ら死ににいくような行為だとは思ったけれど、もうこの際聞いてみたいじゃない。今からわたしの悪いところが羅列されるのかと思うと気は決して軽くはないけれど。
「ええとほら、君には…はたけ上忍が」
「…カカシ、です か」
そ、それじゃあ僕はもう行くねと彼は去って行った。1度振り返ってぺこっと頭なんか下げて。
(あ、あほらし…)
(わたし、カカシのせいでフラ…?)
クラッと眩暈でもしそうになって額に手を当てる。わたしのこの純粋な恋が、なんでカカシが原因で砕かれなきゃならない?もっとさ、タイプじゃないとか他に好きな子がいるとかいいなさいよ!
「お、名前じゃないの。ぐうぜーん」
後ろの木からバサーッと逆さにカカシが顔を出した。へえ、そんなところで盗み聞きしてたわけだ。枝に足を引っ掻けて悪気のこれっぽっちもない笑顔で前後に揺れるカカシに殺意というか憎しみというか、あったんだろうけどもうなにも沸かない。
カカシとはただの腐れ縁だ。ここまで行くと幼馴染といっても過言ではないけれどわたしは決してこいつと過去を共有したつもりはない。ただほんとうに気があうだけの古い友達だ。特別な感情を抱いたこともないし、そういう関係になったこともない。どちらかが望んだことだってない。
「名前はもうお昼食べた?よかったらどっか行かない?」
「あんた、班の子たちとの任務は?」
「まだだいじょーぶだよ」
「どこが!もうとっくに過ぎてるでしょうが!」
「よく知ってるねー」
にっこり笑ってタン、と隣りに下りてくる。よくそんなにぶら下がってたのに頭に血が上らないわねと感心するわ。
「とりあえず早く任務に行きなさい。わたしに構わないで」
「えー それはムリってもんでしょーよ」
踵を返して歩き出そうとしたわたしの腰に瞬時になにかが巻き付く。考えるヒマもなく引き寄せられて目の前いっぱいにカカシの顔があった。
「ちょ!」
「あのねー、君も忍ならもうちょっと…」
「うるさいな!味方の前では素でいたいのよ!」
「へえ、じゃあ俺が味方じゃなくなったらもっと怖い顔して向き合ってくれるんだ?」
は、となにかいい返そうとして言葉が詰まる。なにがいいたい?わたしになんと返してほしい?カカシの言葉の意図が掴めないわたしは今心底間抜けな顔をしていると思う。
「なにもしらないのは名前だけだよ」
そう囁くと拘束を解いて じゃあね、とカカシは消えてしまった。その場にポツンと残されたわたしは情けなくもへなへなと地べたに座り込んでしまう。
プレッシング
(なにそれ、真剣に自分と向き合えとでもいいたいわけ?)
(ならもう少しわかりやすく愛を囁いてみれば?)