▼ カカシ
いつまでこんな関係を続けるつもりなんだろう。
見上げた先の赤い瞳とかち合って、安心させるようににっこりと微笑まれる。少し汗ばんだ肌。上気する頬。吐息がぶつかりそうなほど近付いて囁きあった、嘘の、愛。
そんなもの欲しくない、と言えたらどれだけ楽なんだろう。それとも壊れるだけだろうか?今の関係しか保てないわたしに、この先なんて見えっこない。
じわっと浮かぶ涙さえもうずいぶん見ていないわたしは、あの子のようにふんわり微笑むことなんて出来ないだろう(そんなあの子を、あなたは愛しているんだから)(どうしてもっと大切にしてあげないの?)。
「カ カシ、」
「ん…なーに?」
その瞳はわたしのものではない。わたしも、決してあなたのものではない。ではなぜわたしたちはこうも貪欲に求め合うのか?それは至極簡単且つ、何度も何度も脳裏に浮かべられた疑問だった。
お互いがお互い余所で埋められない寂しさを持ち合わせ見せ合い、現実から目を背けるとともに抑制しようとしなかったからだ。
誰でもよかった、そういうわけではない。わたしだって、わたしだってこの世で1番大切な男の腕の方が誰よりもいい。だから今ここにカカシがいるのだと、わたしはなによりもその現実に後悔している。
「見えるとこに付けないでっていつもいってるのに」
「見られて困るよーな相手がいるんだ?」
へえ、そっかと再び柔らかく笑うとわたしの鎖骨をきつく吸う。嫌だダメだと何度言ってもカカシはやめてなんてくれない。寧ろわたしが拒絶すればするほど深く求めようとする。
「そういうのは、好きな子にしてよ」
「してるよ?」
息が上がって言葉が途切れ途切れになる。このままプツンと消えてしまえばいいのに。しわくちゃになってしまった白いシーツを手繰り唇に寄せる。そのひんやりとした感触がまるでわたしたちが背ける現実のような気がして幾等か冷静さが呼び戻されていって、そのままカカシの瞳を見た。
(ああ可哀想な人、)
(抜け出そうともがいているのね)
慈しみや哀れみが混ざったような困惑の瞳。わたしと同じ色をしている。もう止めたくて止めたくて仕方ないのね。けれどわたしたちは終止符の打ち方を知らない。教わって来なかったから。見つける術がないから。
「あいしてる、名前」
「カカシがそういうと嘘っぽいんだもん」
「ならどうすれば信じてくれる?」
「そうね、…なにされたってムリだと思うけど」
「やってみなくちゃわかんないでしょーよ」
(やってみなくちゃわかんないなんて)
(やってみる気は更々ないくせに?)
じゃあどうかカカシはカカシの、そのままのあなたでいてね。言葉には出来ない。することは赦されない。口付けに掻き消されるようにそっと閉じたまま、ふっと過る赤。