▼ 長曾我部

家出してきたというこいつに俺のシャツをかぶせるとなんともいえない気分になってしまい、くっと顔を背ける。風呂上がりということもありその上気した頬が正直たまんねえ。ちらりと盗み見する感じで再度目を向けると物珍しそうに胸元覗き込んでやがる。ったく、こっちの身にもなれってんだ。

「んじゃベッド好きに使えよ、俺はもう寝るからよ」
「え、元親ベッドで寝ないの?」
「ばか、おまえが使うだろーが」
「うん、 え?一緒に寝ればいいじゃない」
「ばっ!」

ばかやろう!と声にしたかったのに言葉は続かなかった。きょとんとこっちを見上げて来る瞳が無垢すぎて熱くなってる俺がばかみてえじゃねえかと呟くでもなく。冷静になろうと頭をガシガシと掻き毟った。

「あのな、男女がひとつのベッドで寝るっつーのがどういうことかわかってんのかおまえは」
「うーん、元親ならいいよ。それとも元親はわたしじゃ不満なわけ?」
「んなこと言ってんじゃねえよ、ばか」
「元親さっきからばかばかうるさい」
「いいからさっさと寝ろ、ばか」

勢いよく踵を返したというのに足が一向に進まない。それもそうだ。こいつが腰にしがみついて踏ん張ってんだから。

「なんだ、まだ駄々捏ねんのか」

呆れたように頬を掻いた。唇をただ横に引き結んでなにも言わないこいつが、ここまで来たらなにがなんでも動かないことを俺は知っている。追い討ちと言わんばかりに盛大な溜息をついて、腰にしがみつくそいつを豪快に横抱きにした。重力に逆らい俺の目線にまで持ちあがったことに驚いたのか、少々こっちが傷つくような悲鳴を上げてがしっと今度は首にしがみつかれる。そのままずんずんとベッドに進む。
屈んで放り投げられるとでも思ったのか、こいつは意地でも首にしがみついたまま動かない。まあこうなることはわかってたさ。こういう意思の強いとこに惚れちまったのは俺だしなあ。こいつを横抱きにしたままベッドに潜り込む。驚いて上げたこいつの顔は言わずもがなおかしくて、それでいて可愛かった。とっとと寝ろ、と囁くとなんとも幸せそうな表情ですり寄られたので悪い気はしない。
結局甘いんだよなあ、俺。家出女を易々と招き入れたり、ベッドで一緒に寝ることを承諾してしまったり。ぜってえ俺の方がこいつのこと好きだよなあなんて不毛なことを考えて、それでも丁寧に優しく胸元に押しつけられた、俺とは違うさらさらの髪を撫でた。俺とお揃いのシャンプーの匂いに柄にもなく微笑んで、電気は消えた。


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -