▼ 伊達

友達に久しぶりに夕飯一緒に食べようって誘われて、少し遅めの時間帯にファミレスで待ち合わせ。
メロンソーダを意味もなくストローでかき混ぜていたら彼女は来た。遅れてごめん!と本当に慌てた顔で向かい側に座る。なんでも、途中で足をくじいて死にそうだったそうだ。なるほど、彼女の表情に苦が色濃く出ている。大丈夫なのかと聞けば、安静にしてたら治るよなんて他人事みたいに笑う。それからは大人しく2人でメニューとにらめっこ。カロリーを気にする彼女は本当に可愛かった。きっと男ってのは、こういう子を守ってあげたいと思うんだろうな。こう、露わになった肩が扇情的で、惜しげもなく晒された膝小僧が頼りなげで。なんでもないことに一喜一憂したりする子に、弱いんだと思う。例に漏れず彼女にも愛する男性がいて、学校でも有名なほどの、まあ、バカップルというやつだ。わたしはその彼氏くんと数えるくらいしか会話したことないけど、なんだかツンケンしてるのかクールなのかわかんない。とにかくさらっと爽やかなのにどこか冷気を纏わせていて。それがこの子の前だとほわーっと柔らかくなるんだから不思議だ。お互いの身を案じた喧嘩なんかはしょっちゅう。犬も喰わないよ、ご両人。

「決めた?」
「うん、あ、でも」
「迷ってるの?わたしのと半分こしよっか」

うん!と満面の笑みを浮かべる彼女は正直可愛い。彼女とはもう数年の仲になるけれど、この笑顔だけは変わらなかった。笑えば笑うだけたくさん泣きもする子だったけど。娘を嫁に出す父親って、こんな気分なのかな。最近は彼氏くんとべったりでなかなか会えないから、少し寂しかったんだ。

料理が運ばれてからは2人して静かにそれに没頭した。彼女がパスタを器用にフォークに絡めるのをちらちらと見ながら、時折交じる、今日の天気の話しだとか先日買ったワンピースのフリルがちくちくして痛いだとか、そんなどうでもいいようなそれでいて本当はなにかとてつもなく重要なことのように錯覚しそうな話題に相槌を打った。そうして女の子が最終的に向かうのが男の話題だ。ちょこちょこと彼女の言葉に彼氏くんの名前が交じるようになった。なんでも今、喧嘩中なのだそうだ。

「すぐに仲直りできるよ」
「今回のはいつもと違うの、わたしはぜったいに謝らない」
「でもこのままも嫌なんでしょ?話し合ったら?」
「だって向こうも怒ってて話し聞いてくれないんだもん!」
「でも好きなんでしょ?」
「それとこれとは別!とにかく今回のはあっちが悪いの。あ、ドリンク入れてくるね」

そういって彼女はコップを手に席を立った。周りを見渡してみればいつのまにか客がずいぶん減っている。わたしもドリンク入れて来ようかなと机上に目線を戻したとき、彼女の携帯が点滅していることに気がついた。どうやら着信のようだ。液晶画面には政宗、と表示されていた。
ほどなくして彼女が帰って来る。着信のことを告げると彼女はほんのりと頬を染めた。それでもどこか折れきれない表情でこっちを申し訳なさそうに見上げるので、電話してあげなよと返した。それからそそくさとコップを手に立つ。

振り返ると彼女は俯きがちに電話を耳に当てていた。会話は聞こえなかったけれどどうやら言い争っている感じはないようだ。コップにメロンソーダを注ぎながらきっとあと10分もすればあの彼氏くんの登場なのだろうな、と思った。
その予想は当たった。いや、外れたのか。彼氏くんは9分経つ直前にファミレスに飛び込んできたのだ。誘ったのはこっちなのに本当にごめんねと泣きだしそうな表情で言う彼女の手を引いて彼氏くんはポケットから千円札を何枚か引き抜いて机に置いた。それについてまた些か口論があったけど大したことじゃない。

「あ、わ、忘れてた、わたし足挫いてたんだった」
「はぁ?おまえばかか、背中乗れ」
「そんな恥ずかしいことできるわけないじゃん!」
「うっせえ横抱きにすっぞ」
「じゃ、じゃあ外でお願いしますここじゃぜったいやだ!」

メロンソーダを啜りながら見た彼女の足首は確かに腫れていた。早々に冷やした方がいいんじゃないだろうか。だけどそんなになっても走って来てくれたのか、と不謹慎にも喜んだのは一生の秘密だ。

「伊達くん」

呼ぶと彼氏くんは胡散臭そうな顔でこっちを向いた。それをやっぱり彼女に怒られてバツの悪そうな顔。

「名前のこと、大切にしてあげてね」
「 んなことわかってる、悪かったな」


彼女の肩を抱くようにしてわたしに背を向けた彼氏くんは、誰もが見惚れてしまいそうなクールな表情を残したまま隣りを過ぎて行ってしまった。外に向けると漆黒の闇がある。この中を1人で帰るのは些か怖いなあ。こんなときに迎えに来てくれる人がいればなあ…
さて、わたしも彼氏作るかな。

彼女と彼氏くんの事情
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