▼ 片倉

意味なんてないとわかっていながら諦められないのは女の子として当然だし、仕方ないことだとも思う。相手が自分のことをどうとも思ってなくたって、砂粒みたいな可能性に精一杯生きて賭けてみたいものなのだ。なのに、なのに、

「名前さま!またそんなにスカートを短くなさって…!胸元のボタンも開けすぎだと何回申し上げればお聞き分け下さるのか!」

料理じゃ到底叶わない相手だからせめて女だって意識してもらいたくてした行動はみんな彼の一喝でぴしゃりと跳ね退けられてしまう。
まったくもう、なんて言いながら彼、小十郎はすぐにわたしのボタンを留めにかかった。間近に顔があるっていうのにドキドキしてるのはわたしだけ。
彼はわたしのことなんて”政宗さまの妹君”としか見てない。悔し涙が目尻を濡らす。なのにやっぱり彼は気付いてくれない。こんなにも苦しいのはわたしだけ、わたしだけの一方通行なんて。

「最悪!小十郎のばか!」
「この小十郎、間違ったことを申しましたか?」
「間違いだらけよ!小十郎なんて大嫌い!」

きっちり留められたボタンのせいで息苦しいのも手伝って、わたしは首筋に添えられていた彼の手を強引に引き剥がした。嫌いよ、大嫌い。呟いた声が掠れて情けなさを増す。どうしたらいいの、どうしたら努力してるわたしを認めてくれるの?涙を見られたくなくて俯いたのに、その反動で無情にもそれは頬を伝った。ああやばい、鼻水垂れる。

「う、…っ」
「なっ、どうされたのです!」
「こ、小十郎のせいだから…っ」

慌てた小十郎がわたしの肩に手を添えて覗き込んで来る。それをことごとく避けながら乱暴に目尻を拭った。最悪だ。年上の彼に少しでもつり合えるように大人っぽさを日々研究していたというのに、そんな乙女心はこんな子供っぽさひとつで簡単に崩れる。大音量で叫んでやりたい。思いっきり小十郎を突き飛ばしてそこら辺の川に身投げしてやりたい。

「なぜ泣かれるのです、」
「やだ、小十郎なんて嫌い、」
「嫌いで構いません、さあ顔を上げて。乱暴に拭っては目が腫れてしまいます」
「後で勝手に冷やすからもう構わないで、余計惨めだから!」
「なりません、あなたはこの家の大切な1人娘なのですよ」
「そんなの、わたしが望んだんじゃないわ」
「身なりを着飾りたいお気持ちはわかります。ですがなにかあってからでは遅いのですよ」

なにかってなによ、と言い返してやろうと顔を上げたら声がでなかった。ひどく苦しそうな顔で小十郎がわたしを見ていたのだ。今にも泣きだしてしまいそうな、こっちまで胸を締め付けられるような、それでいて誘われてしまいそうな真っ直ぐな瞳。いつのまにか引っ込んだ涙で濡れていた目尻が乾いて痛い。

「あなたは女性なのです。きちんと自覚なされよ」

さ、目元を冷やしに行きましょうと小十郎はわたしの手首を優しく引いて前を歩きだした。あんな顔もするのか、とわたしはさっきの小十郎の表情ばかりを思い浮かべて、ただ引かれるままに歩いた。
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