▼ ゼロス

*ちょっと捏造

ゼロスの動きが影で怪しいのには、本当は気付いていた。あの人は時折、心底人の悪い笑みを浮かべることがある。けれどもなにも誰にも相談しなかったのは、全てがわたしの思い過ごしであればいいと 半ば逃げていたからだ。もう面倒なことはなにも、彼らに降り注いでほしくなかった。もしも向こうからなにか動きがあるのなら、そのときはわたしが正面切って出迎えてやる。そう、覚悟しているから。

…なんていうのはただの妄言だ。所詮わたしは動けなかったに過ぎない。本当に彼らを護りたいと望むなら幾等でも対処のしようがあっただろう。
なのになにもしなかったわたしは、この世界で1番罪深い。

ゼロスが苦しんでいたことにも、気付くことさえなかった。

いつもの飄々とした言葉が甦る。もうあの声を聞くことは叶わないのだろう。わたしが彼を求めることはもう、許されないのだろう。

(死んで、妹に神子を譲るのだと)

ゼロスは言った。自嘲的な笑みで、それがわたし達が交わした最後の言葉となった。それっきりゼロスは姿を見せないし、居場所もわからないから探すこともできない。

(嘘、本当に会いたいなら動けばいい)

それなのにわたしはいつまでここにいるんだろう。いつまで、向こうが動くのを待ち続けるんだろう。

(ゼロスが手を差し伸べてくれることなんて、ないのに)
(彼自身が、そうしてくれる人間などいないことを熟知しているのに)

ならばもう会わない方がいい、会えなくてもいい、そう思ったとき向こうからこっちに歩いてくる影が見えた。優雅な腰つきで、肩に垂れた紅く長い髪を颯爽と払っている。

「俺様の愛しいハニー、元気だったか?」

「 ゼ、 ロ…」
「なんだよー、久しぶりに会ったんだから嬉しそうにしてくれよなあ。…で、ロイドくん達はいずこ?一緒じゃねーの?」
「…知らない、教えられないわ」
「なんだよー、冷てえなあ名前ちゃん!」

わたしの目の前までくると、何気ない仕草で顔を近づけ覗き込んでくる。綺麗な瞳に見つめられてわたしは動けなくなった。

「ねえ、わたしのこと 殺す?」
「なに物騒なこと言ってんの」
「殺してくれないの?」
「殺してほしそーに言うねえ」
「だって、もう…」
「殺さねえよ。名前は殺してやんねえ」

影が落ちてきて、ゼロスは至極自然な仕草でわたしにキスをした。触れるだけの、軽いキス。相手の唇の温度も把握できないような子供っぽい、キス。

ゼロスは、やさしい。
わたしをまだ縛りつけておこうとする。やさしすぎて、おかしくなりそう。何度泣いても涙が枯れない。ゼロスのせいだ。ゼロスのせいでわたしおかしいんだ。そんなやさしさ要らない、望んだこともない。そんなの、

「反吐が出る、」
「おうおう、言うようになったじゃねーの」

ねえ、
(せめてゼロスを好きだった)
わたしを殺して、
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