▼ 長曾我部
セックスなんてのは最中は確かに気持ちいいかもしれないが(相手が巧い人だからね、)事後に残るのは、やりきったという満足感と疲労感と汗だけなんてまるで小学校の頃の運動会よね。
頭の中をもやもやと巡っていた思考を言葉にすれば、純粋な少年少女たちの神聖な行事を汚すなと汗ばんだ指で頬をつねられてしまった。
(それこそ冒涜だわ)
(わたしはあんたと汚れた行為を繰り返してるわけじゃない!)
「運動会なんて単語、何年振りだよ」
「さしずめ最初のキスは選手宣誓ってところね」
裸のままの背中にシーツを引っ張り上げて掛ける。元親はそんなわたしの横に腰かけたままけらけらと笑った。艶のある、クールでニヒルな笑みだ。その顔に魅せられたのが妙に腹立たしくてわたしはばふ、と枕に額を埋めた。
「はあー 明日も学校あるのに疲れた」
「遅刻してきゃいいじゃねーか」
「やだよ…なんか罪悪感覚えるもん」
「はっ、潔癖なこった」
「ちが、そうじゃなくて…」
言葉を濁すわたしに、元親はああ?と唸って顔を覗き込んできた。なんだこれ、言わなきゃなんないのか。頬がかあと赤くなって元親に背中を向ける。なんでもないなんて言ったってもう今さら遅いんだ。人懐っこいくせしてあんまり他人に興味のない元親が、こうやって踏み込んで来るときはどんな風に振舞ったって逃げられっこないんだもの。
「元親のせいで、わたしがだめになってるなんて思われたくないの。元親といても、ちゃんとできてる人間でありたいの!」
そりゃ確かに元親は顔は綺麗だけどナリがあれだから、後ろ指さされることだって多々あるんだ。そんなやつといるからお前も、って誰かに言われるのは許せない。元親を知らないくせに元親の周りみんなが朱に交わった赤みたいになるって思われるのが許せない。
「元親が好きなの、ずっと元親の傍にいたいの」
枕の中で呟いた声はまるで虫が鳴くみたいに小さいものだったけれど、元親はちゃんと聞きとって手を握ってくれた。きっとわたしの考えてることがわかったんだ。わたしが悔しいと思ったことも、わかったんだ。
「わかってるよ、」
こんなにも、好きだってことをちゃんと知っていてほしい。あんたを大事に思ってるってことを、知っていてほしい。だからわたしは飽きずに何度も何度もあんたに抱かれたいし、抱かれるのだと思う。疲れたなんて言いながら、けらけら笑ってるあんたの首筋とか見て隠れて頬を赤くしているわたしを、知っていてほしい。
「元親、もっかいしよう」
「元気のいい姫さんだなあ」
誓いのキスを!
(宣誓、)
(わたしは、彼を愛し続けることを誓います)