▼ 伊達

耳にその細く白い手を当て、ひと思いにかしゃんと鳴らす。い、と短く悲鳴を上げると名前は右手で鏡を引き寄せた。髪を掻き寄せるその艶めかしい手つきに、不覚にも抱き寄せたくなる。すぐに満足げに瞳を細めると俺の隣まで来てペットボトルを開けた。一気には呷らず、弄ぶように唇に押しつける。それを見ていて今度は押し倒したくなった。そしてふ、と思い出したように 政宗、と呼ぶ。

「ね、ピアスって穴開けるたびになにかひとつずつ失くしてくんだって」

横の髪を耳にかけ、俺を見上げるようにして彼女は意地悪っぽく微笑んだ。耳に光る彼女の誕生石がきらりと光る。俺はそれを少し目を細めて見た。小ぶりなそれが彼女の白い耳たぶによく映えて綺麗だと思った。

「なにを失くしてるんだろうね、」

失くしている、と口で言いながらも彼女の表情はどこか楽しげだった。そして同時に儚げだった。失くしていくものがなんなのかわからないからだろうか。さよならを言えないからだろうか。どこか愛おしそうにペットボトルのボディを指でなぞっていくその仕草に堪らず俺は腕を回した。肩を抱いて引き寄せる。俺の右手には漫画があったがストーリーもセリフもこの際どうでもいい。

「人間は、生まれてくるときからもう穴が開いてるのにね」

まるで、明日世界が終っちゃうけどもうそれも仕方ないねとでもいう風な笑顔だった。俺は指で器用にページを捲る。文字を目で追う振りをしながら彼女の、子守唄のような声を聞いていた。

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