▼ 伊達

震える指先のせいでなかなかその絡まった鎖を解くことができなくて、気でも抜けばすぐに泣いてしまいそうだった。わたしを嘲笑うように鎖に結ばれたシンプルな指輪がきらりと光る。
いつもはもっと丁寧に、鎖が重なってしまうことのないように置いておいたのに、なんだってこんな風に絡まってしまったんだろう。もうずっと首から外していたバチだろうか。団子になってしまってなかなか結び目が解けない。

固く固く鎖が絡み合ってもう諦めてしまおうかと思ったとき、ふとこれを差しだしたときの政宗の顔を思い出した。つっけんどんでぶっきらぼうで。最初はなにを伝えたいのかわからなかったけれどこのシンプルな指輪を差し出して、首輪だなんて笑ったくせに耳は真っ赤で。わたしが返事をする間もなく、彼はその指輪を鎖に通して首にかけてくれた。

後ろから髪上げてろ、なんて言われたときは血が沸騰するんじゃないかと思うくらい恥ずかしかった。ひんやりとしたその鎖の感触や、そのあとわたしをじっと見つめてから静かなキスをくれたことだって、忘れてないよ。

「政宗、政宗」

何度呼んだって呼び足りなかった。振り返る彼の顔が大好きだった。なにも言わないのに頭に置かれるその手、仕方ないやつだなって笑うその声。華奢なのに凄く凄く広いその背。

(ああこんなに絡まって)
(結び目が、解けないの)

悔しさでいっぱいになって崩れるようにしゃがみこむ。ここのところずっとイライラしてたからな、気を抜いちゃだめだってわかってたのに。

こんなに会えないものだと思わなかった。約束がなければ一目見ることさえ叶わないなんて。
勝手にしろ、と怒鳴って出て行った背中を思い出して唇を噛み締める。ああ、あなたのいう通り勝手にしているわよ、けれどその勝手がこんなにも息苦しいものだったなんて思ってなかったのよ。あなたはもうわたしを必要としていないかもしれないけれど、わたしはまだまだあなたのことが必要みたいなの。
お願い、帰ってきてよ。

「で、頭は冷えたかよ」

顔を上げると玄関にずっと焦がれた姿があった。壁に寄りかかって腕を組むそのふんぞり返った態度は数週間前となんら変わらないままで。
わたしは声を出すこともできずただ間抜け面を晒していたのだと思う。静かに歩み寄る政宗を見上げながら、そのときなぜかひりひりと痛む頬の存在に気がついた。

「なに泣いてやがんだ、お前は」
「ま、…さ、 ど、どうして」
「ばかやろう、合鍵持ってるだろーが」
「そ、そうじゃなくて…」

わたしの目線に合わせてしゃがみこむと指の腹で目尻をぞんざいに拭われる。ひでえ顔だな、と呆れたように言われてまた涙が溢れた。
それを咎めることなく政宗は拭い続けた。

「わ、わたし…わたし、まさむね…っ」
「俺もばかだよな。勝手にしろっつって、自分から戻って来て」
「まさむね、…」
「coolじゃねえな、熱くなっちまってよ」
「わたっ…わたし、まさむねがいないとだめ、で…っ ごめ、っ」
「知ってる。今のお前、すげえ可愛いよ。俺しかいないって感じで」
「ば、ばかあっ」

いつもの調子でけたけた笑って、それから優しく手を包まれる。自然な動作でネックレスを引き抜かれて、なにをするのかと見守ると政宗の指がさらさらと結び目をいとも簡単に解いてしまった。まるで魔法みたいで、わたしはただそれをじっと見ていた。

「髪、上げてろよ」

言われた通りにおぼつかない指先でうなじを晒す。政宗が後ろに回ってネックレスを掛けてくれるのを静かに感じていた。自分で確認できない個所を他人に晒すのはやっぱり少し恥ずかしい。わたしは大人しく呼吸を繰り返すことだけに集中していた。

「首輪外してっからこんなことになんだよ」
「まさむね、…」
「…なんだよ」
「好きだよ、政宗」
「知ってるっつの」
「好き、だいすき。あ、あい、」

零すように囁くと後ろからぎゅっときつく抱きしめられた。回ってきた腕に触れると少し熱かった。耳元辺りに感じる政宗の吐息で気でも狂ってしまいそう。脈打つ心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと、目をきつく瞑る。ああ、溶けでもするんじゃないだろうか。

「それは俺のセリフだろ」

結び目アイラブユー
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