▼ 真田

いつかいなくなってしまうと知っている。いつかわたしよりも先に、いいや言うなれば遥か昔に、出会うより前に、死んでしまうのだと知っている。
けれどわたしは彼の、熱の籠る頬に手を伸ばさずにはいられなかった。ああ愛しい、ああ切ない。
敵の刃に貫かれて死んでしまうのなら今いっそわたしが楽にしてあげるのに。その陽に焼けた首にまで指が下がったとき、戸惑ったままの瞳で幸村は思い出したようにぽつり、破廉恥でござると呟いた。
今わたしの瞳に狂気が宿ったことくらいわかっているくせに。わたしは自分でも信じられないくらいにっこりと笑って見せた。

「名前殿はまっこと不思議なおなごでござるな」

まだ固い表情のまま態勢の崩れを直すと幸村は、膝頭をついたわたしに見上げるようにして視線を寄こした。

「不思議?」
「なにを考えているのか、某の頭では想像もつかないのだ」
「それに比べてあなたはひどく真っ直ぐだわ」

まるで太陽の光のように、真っ直ぐに真っ直ぐに降り注いでくるのだから。屈折したことなんてないんでしょう。屈折せざるを得ない状況に陥ったとしても無我でそれを貫き通したんでしょう。それがひどく眩しい。そして、わたしの生まれる遥か昔にその灯火が消えてしまっていることがひどく悔しい。

ほんとうは触れられなかった、ほんとうは触れることなど赦されなかった。
なのに目前にいて、息をして、瞬きをして、わたしを見ているのだから嘆かずにはいられない。
ああ愛していると、ああ狂おしいのだと。

「遠回りなんて、できないのでしょうね」

わたしとあなたの線が交わることは、ないのでしょうね。真っ直ぐに真っ直ぐに幸村の目を見た。

「心配されますな。この幸村、どこまでもお供する所存でござる」

子供みたいなきらきらした笑顔でそんなこというもんだから、声を上げて笑ってしまった。彼はどうかしたのかとおかしなことを言ったかと慌てたけれど、目尻に浮かんだ涙を見つけるとそっと黙って気まずそうにしてしまった。

「そ、某 情けないでござる」
「どうして?」
「精進が、…足りぬ」

俯いて、折った膝の上で固く拳を握る。その耳が真っ赤に染まっていることにわたしはまた笑ってしまった。悲しくて、笑ってしまった。

君に見惚れてしまった
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