▼ 潮江
気を抜いてしまえば膝からがくっといってしまいそうだな、と思っていたら本当にそうなった。
ひどい睡魔だ。瞼の重みに耐えられず身体ごと廊下にしゃがみ込む。途端に背後でバシーンとえげつない音が聞こえたがそれどころじゃない。
あと一分、いや三十秒でもいい。ここでこのままの体制でいたらわたし完全に、寝る。
「お、おい!」
どこか遠くの方で声が聞こえたけれど返事ができない。片足をもう夢の中に突っ込んでいる状態だった。
「大丈夫か!どこに当たった?!」
(当たった…?なにが?)
ふらあ、とそのまま後ろに倒れそうになるのを誰かに支えられてうっすらと開けた瞳で確認する。誰だ…?曇った視界でわずかに深い緑が見えた。
(誰?六年…?)
「おい、しっかりしろ!」
がくがくと揺さぶられてちらりと意識が浮上する。寝るか寝ないかの境目に立たされるのはどうしてこうも、気持ちよいのだろうか。
「も、だめ…」
頼む揺らさないでくれ誰だか知らないけど。むにゃむにゃと自分でもなんて言ったのかわからないくらいの声を相手はちゃんと拾っていたようで なにい?!とか叫んでる。
うわ、なんか…この雰囲気知ってるわ。
「し、 お…え?」
「そうだ、俺だ!だから死ぬな!」
「し、…死な、ない…から、ゆ、揺らすな…」
「もういい、喋るな!今医務室に連れて行く!」
あ、それ助かる。わたしの身体を軽々と横抱きにすると潮江は一目散に走りだした。頬を掠める風が心地よい。揺らすな、の注文通り配慮された、かろうじて感じる揺れにわたしは完全に意識を手放した。
夢見心地
(ああ心地よい)
(目が覚めたら潮江にどやされるの覚悟、しとかなきゃ…)