▼ 竹谷

「竹谷なんて嫌い」
「なあ、…」

彼女は毒蛇のような女だった。ただただ舌をちろちろとさせてこちらをうかがっている。見るからに毒々しい女だった。俺はなぜだかそんな彼女に惹かれたし、彼女は俺に背中を預けたりもした。間違っているということに気付いていなかった。気付いていた方がよかったのだろうか。気付いていて、それでも知らないふりをしていた方がまだ傷は深かっただろうか。彼女に手を伸ばす希望さえ、摘み取られただろうか。

彼女は敵のものだった。敵の支配に忠実な忍びだった。忍術学園に忍びこむために、忍たまであるなら誰でもよかったと言った。どうしてこんなことをするのかと途切れ途切れの声で問うと、したいからしたのだとつっけんどんに返された。

「でもその顔は好き」
「うそだろう、」

俺は初めて会ったときから彼女が好きだった。ふわりと笑って、町に出た俺に道を尋ねて着たのだ。目的地は忍術学園だった。小さい弟を将来入学させたいから少し下見をしておきたいのだと言った。俺はもちろんふたつ返事で彼女を学園まで連れ帰った。彼女は大きくて立派な学園だとたいそう喜んだ。俺も嬉しかったのでとてもよいところだと笑った。

けれど何回か会った宵、ふと空を見上げると不自然な方向から人が飛んだのだ。俺は誰にも知らせずにその影を追った。彼女だった。忍服を着込んで口元まで隠してはいたが俺は一瞬で彼女だとわかった。彼女の顔ばかり眺めては思い浮かべていた自分を悔いたくなった。

彼女は持っていた巻物を胸元に隠すともう二度と笑ってはくれなかった。それどころか冷めた目で俺を見ていた。けれど俺は取り乱さなかった。その瞬間すべてを受け入れたのかもしれない。なんて愚かなことを。

「ダイスキ、」
「こんな、こと、」

いつかたけやがそんなかおをしてころしにきてくれること、わたしまってるからね。
こんな浅い傷で、俺はあんたを愛していたのか?こんな浅い傷で、あんたを?
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -