▼ 竹谷

「昨日、なにしてた?」

かち、かち。
彼女が白い指でボタンを押す音だけが部屋の中に、いや、俺の耳に響いていた。新登場とか新発売とか、今時の若者なら追いかけたくなるような流行ってものが嫌いな彼女は、出会ったときから同じガラケーを大事そうに愛用していた。

昨日は会えなかった。その前も、前の前も。
彼女を目の前にして、こうして触れられる距離にいられるのは今月初めてのことだ。日数で言うなら…そうだな、俺のこと忘れちゃったのかなって不安になるくらい、かな。

「聞いてる?」

間が持たなくて呟いた声は彼女に届いたのかどうか心配だったけど、その薄い眉がぴくりと動くことによってようやく俺はふうと安堵の息を吐いた。

手を握りたい。名前を呼ばれたいし、見つめ合ったりもしたい。本来恋人同士がするようなことを、ようやく会えた喜びと共に分かち合いたい、のに。

「雪、降ってきたな」

彼女のお気に入りの、薄い青色のカーテンをそっと開ける。窓の外は真っ黒だったけど、粒の大きな雪がゆっくりゆっくり落ちていくのが見えた。通りで寒いわけだ。指が触れた窓は氷のように冷たくて寂しくなる。

「閉めて」

顔だけを向けて彼女を見ると、機嫌の悪そうなしかめっ面が肩を竦めて俺を見ている。今日会ったときから唇は可愛くもないへの字を保っていた。

俺と一緒にいてもつまんねーのかな、学校の友達の方がいいのかななんてもう何十回考えただろう。

「閉めてよ」

今度はこっちを睨むこともなく、自身を暖めてくれるこたつに向かって彼女はぽつりと呟いた。

シャ、と小さく音を立てて外と隔たれる部屋は、彼女に近づくたび、柔らかく温度を上げる。

「ねぇ」

彼女の向かいに腰掛けてこたつに足を突っ込んだとき、彼女は小さく小さく俺の名前を呼んだ。聞き間違いかと思うくらい、蚊の鳴くような声だった。

「つまんない?」

わたしといても、と続けて締めくくる。
なんのことを言われたのかわからなくて一瞬ぽかんとしていたのだろう、そんな俺を見て彼女はちょっと怒ったような顔を少し赤らめていた。

キスしよう
(それが自然な流れであると、俺は思うんだよ)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -