▼ ラディッツ

なにもない草原だった。
空は青くて空気も綺麗、だと思う。惑星べジータとは大分変わった星だった。ここの住民の戦闘力から見ても争いがないのがわかるくらいに平和で、静かで、もう感じることもなくなったのどか、という感覚を久しく味わった気分だった。
こんな星を彼と一緒に、観光でもできたら幸せだったろうに。
強い風が吹くとわたしの髪は無造作に宙に舞った。その間から見える、愛しい彼の姿がある。

「スカウター、壊れちゃったのかな」

だってこの周辺の生存反応はないだなんて、そんなことありはしないのに。
ゆっくり歩み寄って、わたしは彼の傍らに膝をついた。彼に触れようと伸ばした手を、寸でで止める。カカロットを連れてすぐに戻るって、彼言ってたのに。

「ねえラディ」

ひどい怪我。いつもそう。ラディはすごく弱い。だからわたしが守ってあげなくちゃ。言ったら怒るから、それはわたしの中だけでの決めごと。

「ラディッツ」

帰ろうよ、ねえ帰ろうラディ。
この星はとても綺麗だからフリーザさまに献上するのはとても惜しい気がするけどこれも仕事だから、カカロットと3人でやれば5日もあれば足りるよ。帰ったら酒場で乾杯しよう。弟との久しぶりの再会に。

「そんなところで寝てたら、風邪を引くから」

あれ?なんでわたし、ラディに触れられないんだろう。
本当はわかっているんだろう、って?
そんな、まさか。

濁る
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