▼ ユーリ
朝、慌ただしくパンを咥えたまま出て行ったかと思えば2、3日は帰ってこないでわたしがそれに慣れた頃に夜中そっと帰って来てはわたしのベッドに潜り込んで朝を迎える。
それが最近のユーリだった。
要するにギルドの仕事が忙しいのだ。
「自分の家に帰ったら?」
独り言のように呟いた言葉に、ちょうど口にパンを詰め込んだユーリの視線だけが寄こされてわたしはコップにミルクを注いだ。
「ほら、忙しいのにわたしの家で寝泊まりしてたらいろいろ不便でしょう」
並々と注がれたミルクをユーリの前に差し出すと碌に咀嚼していないパンをそれで流し込む彼のじっとりとした視線が再びわたしを刺した。
わかっていたけれどわたしはその視線を、顔を向けないという反応で受け流す。
「嫌なのかよ」
今日だってそんなに時間があるわけじゃないくせに、不機嫌そうな顔で椅子に座り直す。長く一緒にいることで気付いたそれは、気に喰わないから気が済むまで話し合う、という態勢だ。
ひとつ息を吐いてから、そうじゃなくてねとわたしは答えた。
「この前だって着換えがなくて困ってたし、忙しいところわざわざうちに来なくてもと思って」
「俺が来たくて来てんだ、お前が気にすることねぇよ」
「でもこのあと家に帰って道具を持って仕事に出掛けるんでしょ?手間だわ」
「…よっし、なら一緒に暮らすか」
空になったコップの水滴が静かに滑り落ちてテーブルを濡らした。
その隣りにことんと小さな箱がユーリによって置かれる。それを目線だけで辿って行くと誇らしげに笑うユーリの顔があって、わたしはその言葉と箱との関連性を見出そうと必死に脳を動かす。
「結婚しようぜ」
その前にユーリの口から告げられてしまったのだけど。
ぱかりと開けられた箱の蓋。中身はまるで今のユーリの満面の笑みのようなキラキラした宝石。
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