▼ ラディッツ

*現代パロ

「ターレス、わたしのこと好きなんだって」

続く静寂に気まずくなって、わたしはそう呟いた。目の前には期末試験対策としてラディが作ってくれたノートがある。御世辞にも綺麗とは言えないけど、頑張ってるんだなぁって一目でわかる仕様となっているノートだ。

「ね、」

バキ、とシャーペンの芯がどこかに飛んでいく音がして顔を上げる。ラディも静かに自分のノートを見詰めていた。だけど芯が折れたのはわたしのじゃない、じゃあラディのだ。

ラディのノートにきちんと最後まで書きこまれることのなかった数字が中途半端に途切れていた。

「芯、要る?」

自分のペンケースをあさりながら赤ペンやら消しゴムやらを取りだすけどどうにも目当てのものがない。ああそうか、わたしは芯はケースに入れずにシャーペンに最大限詰め込んでいるんだった。
芯を取りだそうとお気に入りのシャーペンを掴むわたしの腕を、ラディが掴む。どこかひんやりとしているようだった。

なに?と声に出さずに首を傾げてみる。
あ、芯要らないってこと?

「…じゃなくて、名前」
「なに?」

わたしは今度こそ、ラディの真意を問うべく言葉にして聞いた。

「ターレスが、なんだって」
「え?あ、ああ…あ、携帯鳴ってる」

妙に強張った顔のラディがわたしの腕を掴む。
だけどわたしはわたしのポケットで振動する携帯が気になって仕方なくて、ちょっと待ってとそれを優先させる。片手では確認しにくいのをわかっているはずなのにラディは固まったままわたしの手元を見詰めるだけで動こうとはしない。

「そんなんいいから、俺の話聞け」
「よくない、ちょっと待っ、あ、ターレスからだ」
「貸せ」

さり気なくディスプレイの文字を盗み見ていたラディが携帯を素早く奪い取る。
あ、と声にする暇もなくわたしの携帯はラディのベッドにぼふんと投げ捨てられてしまった。そしてなにをするんだと抗議するはずの口がラディのそれによって塞がれる。
なんて唐突なキスなんだと思いながら、2人もみくちゃになってわたしの後頭部が床にごん、とぶつかる。
痛い、地味に痛かった。

「なにすんの、変態」

ちょっとした腹立ちにそう呟いて睨みつけるとラディは顔をかっと赤くして、怒鳴ろうとしたのだろう、息をたくさん吸ってから諦めたように目を伏せた。

それから小さくごめん、と言ったのだ。

意気地なし。
そう思ったけど口にしなかった。

押し倒すところまではよかったのに。どうして他の男の話ばかりする彼女を怒ることができないんだろう、ラディは。変態、とまで罵って発破をかけてあげたというのに。
なんとなく膨らんでいた胸がしゅうしゅうと音を立ててしぼんでいく気がした。


「勉強の続きすんぞ」

わたしの方を見ないで手だけ差し出すラディはもういつもの情けない顔をしていて途端につまらなくなる。
だからその手をめいっぱい引き寄せてみる。これまたやっぱり情けない声でラディはわたしの胸に倒れ込んできた。

「おまっ、バカ!」

暴れてじたばたするラディの頭を無理やり胸に抱え込んでやる。わたしも自棄だった。というか泣きそうだった。
ラディがわたしのことを本当に好きだという自信が、もう欠片もなかったから。

「好きなの!ばかやろー!」
「んなっ?!」
「もっとわたしのことめちゃくちゃにしてよ!」

もしかしたらリビングにいるバーダックさんに聞こえたかもしれない。でもそれでも、わたしには譲れないものがあるのだ。それは目の前にいる情けないラディっていう、バカな男。

頭に血が上り過ぎてはぁはぁいうわたしと、慌て過ぎて状況が呑み込めないラディとの視線がようやくかち合う。

「なんで怒ってくれないの」
「おまえなぁ」

熱い涙が耳の方を伝って行った。それをラディが恐る恐る拭う。

名前を呼んでほしい、抱きしめてほしい、キスしてほしい、愛してほしい、それはいつだって自然な感情のはずなのに隣りにいることを許してくれるラディはちっとも求めてなんてくれない。いつだってわたしだけだ。
でもわたしだってそんな風なことばかり考えていることをラディにバレるのが恥ずかしくて、言えるものも言えないまま、それも事実だ。
そうしていたらなんだか、兄妹のような恋人関係になってしまっていた。

「時々なに考えてんのかわかんなくなるな、」


そんなこと言わないで、わたしのことわかってていいのはラディだけなのに。言いたいのに言えない。そんな甘ったれたことぜったいに言えない。
でも本当は言いたい。わたしがラディのこと大好きなんだって、知ってもらいたい。

ぽろぽろと溢れて来る涙を、呆れた笑顔でラディは拭い続ける。ガキの癇癪みてぇって言われてしまったけれどなにも言い返せない。ほんとうにその通りだ。

「で、ターレスがなんだって?」

宜しくやってろ、ばかやろー
(ラディのことしか見えないって言ったら、そう返された)
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