▼ ↑カノンノとエステル

朝、せっかくいつもより早く目が覚めたというのに気分は優れず、それどころかどんよりとした重ささえ感じた。

窓の外を見るとなるほど、雨さえ降ってはいないが灰色の厚い雲が空を覆っている。世界が狭く低くなったようにさえ感じる。
朝特有の霧の中に世界樹が薄らぼんやりと見えた。

食堂に入るとそこはまだ静かで人の気配がない。パニールもいないようだった。
早く起きすぎたかと思いつつも昨日の席に腰を下ろして頬杖をついた。この船にはたくさんの船員がいるのにこうも静かだと僅かに怖くなる。誰もいなかったんじゃないかとさえ思える。
微かなモーター音が床を響かせているだけで、まるでそこには最初から誰もいなかったかのような、ただの空間がある。

こつん、…こつん と自分の爪が机を叩く音さえ無機質なもののように感じる。はて、オレは何者だったか。一体どんな目的でここにいたのか。それがわからなくなりそうだった。

「…##name_2##?」

は、と声の方に目をやると桃色が一番に視界に映る。おずおずと言った感じで歩いてくると、オレの前にカノンノは立った。

「おはよ、カノンノ」
「##name_2##、どうしたの?」
「なにが?あ、早起きしてるのが珍しかったか?」

問うと言いづらそうに唇をもごもごとさせる。腹の辺りで組まれた彼女の指は真っ白だった。

「その、…怖い顔 、してたから」

遠慮がちに言い切るとカノンノは目を背けた。ここからでも彼女の肩が小刻みに震えているのがわかる。
変な感情がせり上がって来る。なんだこれ、頬が緩む。

「オレ、怖い?」

僅かに芽生えた悪戯心だったのかもしれない。口角が上がったままそう聞くとカノンノは驚いたように目を見開いてオレを凝視した。

ふるふると頼りなげに桃色が振られる。しかしその唇から否定の言葉はでなかった。ああそうか、そんなに怖い顔してたのかと目を伏せた。

「…そう じゃ、なくて、」

カノンノの指が彼女のスカートをきつく握るのがわかった。ああ皺になっているよ、と言葉にはせずに。あの、その、と口ごもるカノンノの髪をかき分けてやる。俯いたせいでその綺麗な瞳が隠れてしまって勿体ないと思ったからだ。

「…っ」

勢いよく上げられたカノンノの頬は真っ赤だった。驚いてこっちまで目を見開いてしまう。急に触られてびっくりしたんだろう、ごめんと手を引っこめるとカノンノは走って食堂を出て行ってしまった。

どきり、
(ああ、嫌われてしまった)
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