▼ 高瀬

「あつ」
「知ってる」

ぼそっと漏らした独り言に高瀬が几帳面にも返事をした。ちらりと目線を向けてみると彼の自慢の可愛いタレ目は自習課題に向かったまま、シャーペンがカリカリと聞きたくもない音を発していた。

「あつい」
「ん」
「あ、問4の答えなに?」
「教えねー」
「けち」
「しかしあっついな」
「あついね」

プリントの端を抑えていた高瀬の左腕がおもむろに彼の項辺りに当てられる。豪快にガシガシと掻くとシャーペンで頬をつんつんしたりなんかして方程式解くの頑張ってますアピール。だからわたしも大人しく問題文を頭に叩き込みながら、それでもあついねとやっぱり独り言のような彼への言葉を呟く。

「アイス食べたいね」
「余計喉渇くだろ」
「だって冷たいものおいしいもん」
「俺はプールに飛び込みたい」
「さっきプールの授業だったじゃん」
「俺、夏は1日中体育でもいい」
「部活でも水かぶってなかった?」
「あ、見てた?」
「うん、ホースでシャワーみたいにしてていいなって思った」
「今度来いよ、ぶっかけてやるから」
「帰れなくなるじゃん」

にひひ、とプリントに視線を向けたまま高瀬が笑うのが見えてわたしもつられてしまった。頬がだらしなく緩んでるのがわかる。だけど、数学が自習になったってことで浮かれててそんなわたしたちのやりとりを見てる人や変に思う人なんていないから、思う存分にやけておいた。

「俺好きだわ」
「プール?」
「ううん、おまえ」

今度はその視線はプリントにはなかった。真っ直ぐ真っ直ぐ、まるで真夏の太陽みたいにわたしに注がれていて、わたしはもう笑うことを忘れてしまった。あつい、あつすぎるんだ、今年の夏は。

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