▼ ラディッツ

10分、20分。…30分経ってからわたしは椅子から腰を上げた。いつもと同じであるはずのお昼時の食堂の喧騒は、なんだか今日はやけに小さく聞こえる。

人波をかき分けて食堂から出ると空気がひどく涼しげだった。せっかく早く食堂に行って、いつものお気に入りの席を陣取ってるのに。
長い長い廊下を、気付けば足早に通り抜ける。人気のないその奥には、昨日も訪れた彼の部屋がある。
ノックもせずにドアを開けた。

「ラディッツ」

おそらくいるだろうなとは思っていたけど、本当に彼はいた。ベッドに腰掛けて足元に視線をくれている。

「どうして来ないの」

そっと音も立てずに近づいて、隣りに腰を下ろした。覗き込んだ先の彼の横顔は、いつもわたしに見せてくれる笑みを浮かべてなどいなかった。

「また、弱虫って言われたの?」
「ちげぇ」

ラディッツの瞼が僅かに震えて、ああやっぱりそうなんだと思った。
ラディッツには、サイヤ人の生き残りだからか好意を持って近づいてくるやつなんかいないし、むしろたまにからかわれて喧嘩騒ぎを起こしたりしてる。弱虫、弱虫ラディッツって。
彼の口から僅かにしか聞いたことがないけど、ラディッツのお父さんは強くてかっこよかったんだって、それもきっとコンプレックスのひとつなんだろうな。

「わたし、ラディッツが好きだよ」

はじかれたようにラディッツが顔をあげる。ひどく悲しげに瞳が揺れていた。だからもう一度、まるで一方的に投げつけるように好きだよと言った。だけどラディッツはゆっくりと顔を俯けてしまった。

「ラディッツが傍にいてくれたら嬉しい。守ってくれたら嬉しい。好きって言ってくれたら、」

もうそれだけで、なんだっていい。情けない、か細い声で締めくくってしまったのは泣いてしまいそうになったからだ。
だけどそれはわたしの独りよがりだってわかってる。ラディッツはラディッツの強さを求めてるんだって、わかってる。わたしは要らなくたって、ラディッツに必要なものはたくさんある。

「ほんっと、お前には敵わねぇ」

くすりと笑われた気配がして、肩に温もりが触れる。ラディッツの頭だとわかったときにはもうハリネズミみたいな髪がくすぐったくって、わたしも笑ってしまった。

「わたし、ラディッツとずっと一緒にいるからね」

誓う
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