▼ 高瀬
カクン、コテン。
音にするならそんな感じで、彼女の頭は俺の肩へと倒れた。電車の揺れが心地よくて、俺自身も彼女の頭が触れなかったらきっと同じようになっていたんだろう。視線を落とすと俺の汚れた靴の隣りに彼女のローファーがある。膝は女の子らしく閉じられていて、そ
白さに一瞬だけ、そう一瞬だけだ。一瞬だけ、ドキリとする。
電車が暗いトンネルを抜けると辺りはオレンジ色に染まっていて、そのギラリとした光りに僅かに目を細める。ガタン、電車が揺れるのと同時に彼女の頭はずるりと落ちた。
「…わ、」
飛び出したのは彼女の小さな悲鳴で、いつもよりも大きくさせた瞳が伺うように俺を見て笑っていた。俺にもたれるようにして寝ていたことと、ずり落ちたことへの恥ずかしさからだろう。
照れくさそうに彼女は俯いて姿勢を正す。小さいな。女の子ってほんとに小さい。じっと右耳辺りを眺めていたら、やはり彼女は船を漕ぎ始めた。揺れる頭が危なっかしい。
「疲れた?」
なるべく柔らかく囁くと、彼女はくいっと顔を上げた。その頬はやはり恥ずかしげに朱へと染まっていて、そんな表情に不覚にもキスをしたいなんて思ってしまう。あーあ、ここが家だったらな。
「もたれてていいよ」
「でも」
「ちゃんと起こすし」
「…うん。あの、」
「ん、」
「…えっと、ぜ、ぜったい起こしてよ、ね?」
一見怒ったように寄せられた眉と、それには見合わない真っ赤な頬。ああなるほど、今のはありがとうって意味なんだろうなと勝手に解釈して彼女の握りしめられた小さな指を握った。
「じゃ、繋いどこうぜ」
「えっ」
「これなら降りるとき気付くだろ?」
最初こそびくりとして周りを見渡す彼女だったけどやがてひどく優しい顔をほんの一瞬だけして見せて握り直してくる。やがてガタンと電車が揺れて彼女の頭がそっと肩に乗せられる。
「準太、」
「ん?」
「…準太」
「うん」
その続きは帰ってからだな