▼ マリク

ねえ、その人にはどんな風にキスしたの?どんな風に抱いた?
わたしの瞳がごく自然に細められたのは、決して自分の声や台詞に酔ったからじゃない。わたしの一挙一動にあなたがバカみたいに翻弄されてくれるからだよ。乱れたシーツに膝で這う。ベッドに座ったままの太ももに跨って、首元に腕を回した。なのに彼の身体は硬直したまま、わたしの言葉に目を瞠って開き直ったように殺気を露わにさせていた。よくよく見てみれば、その屈強な肩は震えているようだった。

「やめろ」

たったそれだけ言い放って顔を背けてしまう。彼の額には汗の玉が浮かんでいた。昔失った自分の大切な人をただの小娘にバカにされて悔しいんだよね。殺したいほど、憎いんだよね。でも仲間だから、我慢しているんだよね。バカみたいだよね。

「離れろ」
「どうして?わたし、教官のこと大好きだよ」
「俺は好きじゃない」
「どうして?」

小首を傾げてその顔を覗き込めばよくそんなことが言えるな、と聞かなくても手を取るようにわかる教官の声が脳裏に反響する。ぎろりと睨まれると背筋が粟立った。うん、教官のその目が好きなのわたし。

「死んでる人の方がいい?」
「そういう問題じゃない」

回していた腕を遂に振り払われて、わたしは1人ベッドに取り残された。教官は額に手を当てて深く息を吸うとドアの方へ行ってしまう。だけどわたしはそれをただ傍観しているだけだった。やがて教官の指がドアノブを撫でて、ふいにその目がちらりとこちらを見る。生気のない、沈んだ目だった。そして空気が流れ込んで来て、ドアは2人を隔てた。

嫌いだ、その目。死んでしまえばいいのに。
ねえ、あとどれくらいで 死ぬ?


暴れる
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