▼ レイヴン

*死ネタ

ぐりぐり、とおでこを押しつけると無精髭のちくちくが少し痛かった。ぐりぐり、ごりごり。そんなわたしを諌めるように、レイヴンは背中にぎゅっと腕を回して抱きしめてくれた。わたしは動けなくなった。

「今日はずいぶん甘えたなのねえ」

自分の方が何百倍も甘えたな声でレイヴンは言った。わたしは答えずに、ただ彼の腕の中でじっとしていた。あのね、ほんとはね、言いたいことが、あったの。


「…そろそろ戻るぞ、冷えてきた」

ひどく暗く重たい声色でユーリが呟いて、わたしはゆっくりと瞼をもたげた。遠くの方で草木が揺れていて、その傍らに赤い煉瓦を飾った民家が幾つかある。その向こうには見渡す限りの壮大な海が広がっていて、やっぱり堪え切れなくなってわたしは瞳を伏せた。どうしてこんなにも色鮮やかなのだろう。いじわるだ。

「ユーリ、」
「ん」
「わたしもう少しここにいる」
「…わかった」

さわさわと風が走る音が聞こえる。潮の匂いがして、カモメの鳴く声も、わたしの項をぎらぎらと照らす太陽も、なにひとつ変わっていない、あの頃のままだ。それなのに、ぽつんとそこだけ陥没してしまったように感覚が見当たらない。わたしが落としてしまったわけじゃない。そう、彼が、持って行ってしまったのだ。

「レイヴン」

あのね、あのとき、ほんとは言いたいことがあったの。あなたは気付いていたかもしれないけど、それでもやっぱりわたしはそれを言わなければならなかったし、言わないままでよかったのだとも思ってる。真意はわからないの。わたしはそれを探せなかったし、あなたは教えてくれなかった。結局言わない、という選択肢を選んでしまったけど。

しゃがみ込んでそっと触れたその石はとても冷たかった。あなたが嫌っていたその心の臓のよう。色は、ぜんぜん違うからあなたを想像することは少し難しいけれど。

「アール、エー、ブイ、イー、」

窪んだあなたの名前を人差し指でなぞっていくとその重苦しさに吐き気がする。

「エヌ。…あのね、レイヴン」

わたし、あなたに言いたいことがあったの。あなたは知っていたのかもしれないけど、それでも敢えてわたしはあなたに伝えたいと思っていたことを、ずっと言えなかった。

(  、 )

花束と一緒に彼が愛用していたミセリコルデを傍らに置いて、わたしは立ち上がった。

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