▼ 更木剣八

じんわりと汗をかいた身体に熱がこもるのを意識すると、瞼は案外簡単に開いた。途端に襲う息苦しさが、まるでわたしが今まで呼吸を怠っていたような錯覚さえ起こさせる。引き寄せられるように身体を起こすと、湿ったなにかがずるりと額から零れ落ちた。ぼとり、それはわたしの肩を叩いて落ちた。

「あ、れ…」

詰所のソファだった。開きっぱなしの戸の向こうに、見慣れた風景がある。それ以外はなんの面白味もない、ただの空っぽの空間。視線を下げればわたしの額から落ちたであろうタオルが床でぐちゃりと蹲っていた。緩慢な動きでそのタオルに指先を触れると、ふと感じ慣れた霊圧が近づいてくるのがわかる。重苦しいような、それでいて背筋を痺れさせるようなその圧力に、身体を不自然に折ったままわたしは顔をあげた。
しばらくして、開きっぱなしの戸から見慣れた影がのそりと現われる。

「なんだ、起きてたのか」
「たい、ちょ…」

鋭い隻眼がわたしを一瞥すると、ゆっくりとした足取りで更木隊長は自分の机についた。え、置いてあるのは書類だろうか。隊長が書類処理…?

「起きたんならとっとと仕事しろ」
「…あの、わたしどうして」

掴んだタオルを膝に置いて、書類をパラパラと捲る隊長に向き直る。わたしの声にぴたりと手を止めると、ほんのわずかに怪訝そうな目を向けてきた。呆れた、と言わんばかりの顔の角度だ。

「覚えてねえのか」
「う、…なんだか後頭部が痛いような」

あはは、と乾いた笑みを浮かべてみてもやっぱり呆れたような面倒臭そうな顔で書類の処理を再開してしまう。その視線はもうわたしにはなかった。

「一角との稽古中にふっ飛ばされて伸びてたんだよ」
「あ、ああ…なるほど」
「まだ痛むようなら四番隊行って来い」
「はあい」

事務的な動作で書類に判を押していく隊長をしばらく見つめていたけれど、大した変わり映えもなかったのですぐに立ち上がって自分の席へ向かう。珍しいですね、隊長が書類に向かってるなんて…とは、言わなかった。

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