▼ リーガル

*ラタトスク

彼の瞳を見ると、泣きだしてしまいそうだった。懐かしかったからとか久しぶりだったからでもあるのだろうけど、やっぱりわたしは彼の姿を一目見て泣きだしてしまいそうだった。

「あなたはここにいなさい」

ランプの光で薄暗く灯されたその簡素な牢獄の前で腰を下ろした。手を這わせた鉄格子はひんやりしていたけれど徐々にわたしの熱を伝って生温くなっていくのがわかる。
リフィルが気を利かせてわたしをここに残してくれたけれど、彼女に報いることのできそうな台詞や動作がまったく浮かんでこない。ただ困ったように、その青を見詰めるしかなかった。

リーガルだった。がむしゃらに生きることしか知らなかったわたしに、男の人を意識させてくれたのは、リーガルただ1人だった。だけどわたしはそれを彼には告げなかった。告げないまま、旅を終えて離れ離れになった。時々メンバーと再会していたようだけれど、わたしだけはまだまだ強くなりたいからとその、少しでも気を緩めれば乗ってしまいそうな誘いを、断り続けた。彼に会えば、会ってしまえば、剣なんて簡単に捨ててしまえそうで怖かったからだ。

「久しぶりだな」

俯きがちの姿勢のまま、緩々と上げた視線でわたしを捉えて、彼は困ったように笑った。それもそうだろう、牢獄に閉じ込められているところなんて見られて嬉しいものじゃない。うん、とわたしも情けなく笑った。持ち替えた鉄格子はやっぱりひんやりしていた。

「大丈夫、すぐにエミルたちが出してくれるから。その間、わたしが話し相手になってあげるね」
「それは有難い」

少し気を緩めたのか、肩を竦めた柔らかい微笑が返ってくる。ドキドキした。触れられそうで触れられないのは、あの頃から変わってない。リーガルから視線を外して、ぽつりぽつり一人旅の過程をうわ言のように羅列した。時折返って来る彼らしい相槌に、やっぱり泣きだしそうになった。それでね、そのときね、そしたらね、まるで小さい子供が母親にその日の出来事を伝えようとするような拙い言葉だった。でもそれでも、リーガルが笑ってくれるのが、死ぬほど嬉しかった。

(好きだよ、)
けど泣かないんだ、わたし。
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