▼ マリク

「きょうかーん」

港の船着き場で腕を組んでむすーっとしている(普段からこんな感じだけど)教官の背中にぎゅっと抱きついてみる。反応はなかった。ショックだったのでなにも言わずにただぎゅうぎゅうと抱きしめる。
すごい、大人の男性の腰だ。わたしとぜんぜん違う。アスベルやヒューバートとも違う。おっきくって強そうで頼り甲斐があって。…そんな教官を好きになるのには時間はかからなかった。庇われたり女の子扱いされたときはもう、だめだ。好きだって叫びたくなる。けどきっと教官は喜んでなんかくれないから、こうやって子供のままこの人の傍にいたい。それでいい。そしてこの旅が終わったら、さよならでいいんだ。

「教官なに見てるんですかー」
「ああ、魚がいるんだよ」
「魚?教官お魚好きなんですか」
「まあまあだ。それより俺はお前の教官じゃないんだがな」
「だってみんなそう呼んでるんだもん」

腰を抱きしめたまま海を覗き込むと確かに魚の影がちらちらあった。わたしは種類とか名前とか詳しくないんだけど、やっぱり教官は知ってるんだろうな。そのときふいに腕に大きな手が添えられてびくりとする。だけどわたしには気付かず教官は寒くないかと聞いた。だからわたしはこうしてたら温かいですよと答えた。本当だ。

「お前な、年頃の女がこういうことするもんじゃないぞ」
「そりゃアスベルやヒューバートが相手だとわたしもしませんよ」
「じゃあ俺にもするなよ」
「だって教官が相手だと親子に見えるでしょ?」

自分で言ってぐさりと刺さった。見られもしないのにムリに笑みを作って誤魔化したけど、ちょっと泣きそうだ。わたしはこういう関係でいいって決めてるのに、満足してるのに、それ以上を望むなんてどうかしてる。

「ああ、そうだな」

抑揚のない声が返ってきて、それにもまたショックを受けて、俯いたのと手を引かれたのはほぼ同時だった。くるりと回ると教官の髪が揺れるのが見えて、影が落ちてきて、瞬きをする間もなく唇が重なった。ボーなんていう低い汽笛が鳴って近付いてくる船が青い海の中で踊っているようだった。食むように唇を軟く噛まれてぞくりと甘い刺激が走る。最後にひと舐めされてようやく解放された。

「これでもう、親子じゃないな」

奪う
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -