▼ 竹谷

背中からきつくきつく抱きしめられるとなにも言えなくなる。それどころか息をするのさえ苦しくなる。もがき苦しむように天井を見上げて震えるように喉を広げる。彼にバレないように、だ。彼に気付かれてしまえばなにもかもおしまい。他は誰だっていい、ただ1人彼にさえバレなければわたしは生きていけるのだから。

「はっちゃん、どーか した?」

こんな声色いつから出せるようになったんだろう。こんな嘘ばっかり塗りたくった甘ったるい声。自分のものなのに気持ち悪い。なのにはっちゃんは見ないふりをするみたいに聞こえないふりをするみたいにわたしの背骨に鼻先を押し付ける。熱い吐息を感じた。

「はっちゃ、」

ああ熱い、なんて熱いんだろう。涙が溢れそうだ。わたしはいつまでこの棘だらけの鎖に巻かれていなければならないのだろうか。死ぬまで、だろうか。ああそうか、死ぬまで、か。そりゃあいい。

「今日さ、孫兵のカメムシ間違って踏んだんだ」
「えー…」
「ぺっちゃんこになってさ、」
「うん」
「それなのに土に同化…っていうか、融解?んー、とにかく一緒くたにならないの見たら、なんかおかしくなった」
「ごめん、よくわかんないよ」
「こうやってくっつくのに、なんでひとつになれないんだろうと思って」

それからまた思いだしたようにきつく抱きしめられると、ああ、やっとこの熱の因果がわかった気がした。はっちゃんはわたしと一緒に、ひとつに、なりたいのだ。理解すると途端に笑えた。この苦しみはすべて、彼からの熱を受け入れない自分へのしっぺ返しなのだ。わたしが目を背き耳を塞ぎ彼からの抱擁を必要としない証。
ああ苦しい、なんて苦しいんだろう、涙が出そうだ。
棘の鎖の檻の中はこんなにも心地がよいなんて、わたしはまだ知りたくもないのに。

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