▼ 七松

大好きだ愛してるお前が俺のことを嫌いになっても、離れたくなっても俺は俺だけはずっと好きなままだからな覚えててくれよ俺はずっとずっとずーっとお前のことが好きだから次に生まれ変わってもお前を探し出してきっと離したりなんかしないからな笑った顔とかあとほんとは怒った顔とか泣いた顔とかも好きなんだでもやっぱり一番は笑った顔だからずっと笑っててくれ約束だ、大好きだ 愛してる
(アイシテル)

じわじわと脳裏から這い上がって来る吐き気と共に懐かしい声がする。いや、懐かしいと形容すればそれは少し語弊を伴うか。情けない、うまく表現できないなんて。これでも筆記の成績は悪くはないのに。わたしの肩をあらん限りの力で抑えつけた潮江先輩をなんとか身を捻って振り払う。そしたら今度は後ろから立花先輩がわたしを羽交い絞めにする。なんなんだ、なんでこの人たちはわたしの邪魔をする。不安げな顔でただ傍観しているだけの善法寺先輩の方をキッと一瞥して足に力を入れるとなんだか嫌な音がした。それでも行かなきゃ。足が千切れても腕がもげても、わたしは行かなければならない。重い、鉛のような重く濁った空気が食道を這いあがって来る感覚。その気持ち悪さに獣のような唸り声が漏れた。ああ、わたしは自分の身体の悲鳴さえ知らないふりをして今、日頃からお世話になっている先輩方に刃を向けているんだ。罪深いことと知りながら、それなのにわたしは脳裏を這いあがって来るあの声を消すことができない。
(アイシテル)

「どうして、どうして行かせてくれないんですか離して下さい、離せ、離さないと、離さないと殺します、わたしはあなた方を殺します…ッ」
「できるものならやってみせろ、お前程度の実力で私たち六年の相手をな」

言葉は挑発一色なのにその顔にその余裕はない。むしろ普段よりも白い顔の立花先輩はわたしを憎らしげに見た。ああ同じだ、この人もなにもできない不甲斐ない自分を恨む1人なんだ、何者でもないわたしの片割れのような感情を抱く5人の中の1人。

「どうして、どうしてあの人 1人 だけ、を 行かせたんですか」

わたしの肩を締め上げる立花先輩の腕が緩む。同時にわたしも地面に倒れ込む。ああ、立っていることさえできなかったのかと、掌に食い込んだ小石の痛みに思った。その色や形もなんら変わらない小石の群れに、ぼたりと水分が落ちた。ぼたり、ぼた、 ぼたり

「…ああ、 ア、ッあああ ああああああああ」

だからあの人は昨晩わたしに嫌という程愛を囁いたのか。こうなることもすべて知っていて、だから来世にわたしたちの未来を、来世なんて、そんなあやふやなものに頼らなければならないくらい、どうしてわたしも一緒に連れて行ってくれなかったんですかどうしてあなたが行かなければならなかった逃げたいって言ってくれればわたしは、それなのに、わたし、笑っててくれなんてそんな、残酷、な、お願い聞けませんああ七、松せんぱい、
( アイシテル )


喉の潰れた醜い慟哭に降り注いだ雨が、まるでわたしを嗤っているかのようだった。
愛する
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -