▼ ガイ

悪いが俺はもう決めたんでね

透き通るような深く青い瞳に光を宿して、彼はそんな風に言った。昔に見たままと変わらない自信の溢れるような微笑み。夜風がさらさらと彼の金髪を靡かせた。

どういうこと?だって約束だったじゃない

左腰に添えられた愛剣に手を這わせたまま、彼は少しだけ口を噤んだ。わたしにはその意味がわからなかった。だって、そうでしょ?約束だったじゃない。ファブレ公爵に、同じ屈辱を味わわせてやるんだって。

もうやめたんだ、復讐なんて

どこかすっきりしたような瞳で言う。わたしには益々意味がわからなかった。何も返せずただ次の言葉を探す。どうして?なんで?拙い言葉の羅列に苛立ちが増す。思い通りにならない展開に眉を寄せる。
ガイはこちらにつかないという。それはつまり、わたしたちと敵対するということ。わたしたちと戦う、ということ?

(どうして?)

「君も、こんなものに縛られずに自由に生きた方がいい」
「なに言ってんの、わかんない…ガイの言ってること、意味わかんないよ」
「きっとわかる日が来るさ。だからもうやめるんだ、いいね?」
「ぜんぜん良くなんかない!良い加減にして!」
 
声を張り上げたのを合図とするようにチリッと火花が散った。無意識に身体が詠唱の態勢に入り、足元に譜陣が青白く浮かび上がる。それを見てもガイは一瞬、瞳を細くしただけで動かない。
イライラする、ガイはわたしの言動一つに動揺さえ見せてはくれない。対するわたしはガイの言葉の意味を理解出来ない。いや違う、理解 したくない。

「わたしは、…ガイのこと、待ってたのに!」
「じゃあ今度は俺が待つ番だ。君が、普通の女の子として生きる日を待ってる」

細められたのは優しい、深く青い瞳だった。急激に跳ね上げていた勢いが萎んでいき、溶け込むように譜陣は消えた。頭がぼおっとして殴られたような痛みが目立つ。長く息を吸い、吐き出す。

「ガイについてゆけばよかった。ヴァンのところにいて、いつか合流するガイを待つんじゃなくて、ガイの傍で、ガイを待てばよかった」

そうすればガイと一緒に仇討ちを果たせただろうし、ガイと一緒に復讐なんてやめようって決心できただろう。大人になってゆくガイを、余すことなく記憶に刻むことだってできただろう。

「間違っちゃった、…わたし」
「間違いは正せばいい、」
「正した、あとは?」
「君の好きなところに行くといいさ」

再度、青い瞳が細められる。優しげにわたしを見つめる、それ。好きなところ、と言われて思い浮かぶのはいつだってひとつだった。それをきっと彼もわかってる。言葉にするのが少々照れ臭かったので、わたしもガイの真似をして笑って見せた。ああ、こんなに穏やかな表情をするのはどれくらい振りだっただろうか。

「ガイ、…ガイラルディア」

慈しむように、そっと名を呼ぶ。声は出さずにさようならと呟くと強い風が舞った。わたしの髪が舞い上がって、その隙間から青い瞳と一瞬かち合う。すぐに伏せてしまったからその後の色は知らない。

急がなきゃ、わたしにはやるべきことがあるんだから。ガイは待っててくれると言った。だからわたしは帰って来れる。帰ってくることが、赦される。

(わたしの、)


来世の王子さま
(そのときは、あなたと同じ青い瞳に生まれたい)
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