▼ アイク

ああ、暗い。真っ暗だ。わたしは目が見えなかっただろうかと錯覚さえしてしまうような暗さ。どこに手を伸ばせばいいのだろう、どこまで歩いてゆけばいいのだろう。暑さは寒ささえ感じない。果たしてここは、このなにもない空間はいったい。

「ふ、う…っ」

ふいに身体が重くなる。重力がきつくなったのだろうか?立っていられず、見えもしない地面に膝をつく。吸っても吸っても酸素をなかなか取り込むことができない。胸元の布をきつく握りしめるとぬるりとなにかが指に触れた。なんだろう、怖い、なのに確認することができない。
はっはっと犬のような呼吸を繰り返すと、自然とのしかかっていた重力が消えていく。ありもしない天上に顔を向けて、息を吸った。ああ軽い、まるで引き上げられるかのような。浮上していく。目を、開けた。

「…あ、」

灰に近い黒がわたしを見降ろしていた。肉眼で確認できる程度の、ちりばめられた星。それを覆うように森林が両手を広げていた。
夢だ、夢の中を彷徨っていたんだ。汗ばんだおでこに前髪が張り付いていて気持ち悪かった。隣りを見やればアイクが何食わぬ顔で眠っていて、ほんの少し安心した。
瞼が妙に重い。疲れが取れていないんだ。あんな夢を見ればなおさら。
鉛のような空気を深く吸ってから、アイクのそのマントに頬を押し付けた。どうか助けてほしいとは望まないから、だから、今だけは。そう、今だけ。わたしがこの深く重い闇や夜や夢に慣れてしまうまで。

沈む
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テーマ「人外ファンタジー」
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