▼ 土門飛鳥

「お前って不器用だよなぁ」

タライの中のタオルをごしごしやってたら、不意に後ろから影が落ちてきて顔を上げるのと同時にそう言われてしまった。え、なに、急に。わたしの後ろから正面にまで歩いてきて、目線を合わせるように屈んだ彼、土門くんはジャージのポケットに手を突っ込んだままタライの中を見ていた。

「いきなりなんなの」
「いやー、今どき手で洗濯なんてさ」
「洗濯機いっぱいだったの、なにが気に食わないのよ」
「俺ならもうちょっと上手くやるよって話し」
「わ、悪かったわね、器用な方じゃないのよ」
「この前のアイシングのときも思ったけどさ」
「水の量が足りなかったんでしょ!あとでこっそり鬼道くんに言われました!」
「不器用っつーか、要領悪いっつーか」
「ああもううるさい!」

力んだのと同時にタオルを引っ張り上げると顔に泡まみれの水が飛んだ。つ、つめたい…!自然に目があった先の彼は驚いたようにぽかんとしてから、糸が切れたように笑いだした。

「うるさい!ばかやろー!土門くんのせいだから!」

鼻の頭を陣取る泡を取ろうとすれば手を支配していた水が頬を滴る。悔しいのと恥ずかしいのとでパニックだし寒いのと冷たいのとで震えて上手くできない。部室の裏でせっせと頑張ってるわたしにこの仕打ちはひどいんじゃないだろうか。

「ははっ、お前ほんとおもしろいな」
「ぜんぶ土門くんのせい、土門くんなんか大っ嫌い…!」
「ちょ、そんなこと言うなよ…俺はお前のそういうところ、可愛いなって思ってるのに」
「か、かわっ…?!」

俯けていた顔を上げると手元でばしゃりと水が飛んだ。その飛沫の向こうで優しい微笑みの土門くんが見える。ああ、まるでスローモーション。キラキラと光る水滴が綺麗で、彼の丸い瞳に吸い込まれてしまいそう。

「豪炎寺みたいなのがタイプってほんと?」
「えっ、どこで、それ…」
「や、偶然聞いちゃって さ」
「そ、そっか」
「それで、ほんと?」

つい先日、たまたまそういう話題になって、たまたまわたしに矛先が向いて、そのたまたまを聞かれていたというのか。余りにもみんながしつこく聞くもんだから、深く考えないで答えたけど、まあ、やっぱりクールでなんでもこなしちゃう人の方が、…ねえ?魅力的に見えちゃうっていうか、なんていうか。それに細かい配慮にまで気の回る人だし、とごにょごにょ返事を返すと土門くんの唇がへの字を緩く描いた。なんだその不満顔は。

「豪炎寺のこと好きなの?」
「そ、そんなの考えたことない」
「なら俺のことも考えてみてよ」
「へ…っ?」
「わかった?じゃ、俺練習行くから」
「え、あっ!土門くん…!」

彼もたいがい不器用でした
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