▼ シルバー

※HGSSライバル
しまった、と思ったときにはもう遅い。彼の怒った顔を思い浮かべながら頭の中では様々な言い訳が舞っていた。雨が降ってて動けなくて…これはないな、今日はいい天気だったもの。ポケモンセンターでラッキーの出産に立ち会って…いやいや、さすがに。ポケモンの調子が悪くて…ちょっと待て、「お前に似て元気だけはあるようだな」的なこと言われた記憶があるような。ってかそれでも一言断るくらいはできた、よ、ね…。

ああああと言葉にならない声を吐き捨てて頭を抱える。ぜったい怒ってるよね、用事もないのに会いに行っただけでも怖い顔する彼なんだから約束を破ったとなれば…!(帰ろうとすると「なんで帰るんだ!」って怒るしなぁ)

「素直に謝るしかない、よね…」

ため息を吐いて落とした視線の先のポケギアは無情にも曜日を変えたことを示していた。彼につきつけられた約束は、水曜日だったのに、木曜日になってしまったのだ。

特になにか先約があったわけじゃない。ただぼうっとしていたのだ。そう、ぼうっと。仕方がないのでポケモンセンターに泊まって、朝一で謝ろう。その際になにか、ああそうだ、コガネのデパートでなにかプレゼントでも買って行こう。物で釣る、みたいな作戦はどうかと思うけれど、謝罪する気持ちがあることはわかってもらおう。そんなことを悶々と考えると朝はすぐだった。

(最近ずっとこうだ)
(彼のことを考えて)
(時間を潰している)

おかげで寝不足だ。髪もなんだかテンションに同調してギシギシしている気がする。久しぶりに実家に帰ってのんびりしようかな。ここのところバトル続きだったしゆっくりするのもいいよね。コガネまで飛んで、デパート内に踏み入る。
相変わらずのその壮大さに圧倒されつつエスカレーターに乗る。えっと、なにがいいんだろう。彼ってどんなものなら(少しは)喜んでくれるのだろうか。やっぱり…わざマシンとか?いやいやさすがに種類が多すぎて選べないか。それなら戦闘中に使える道具とかの方がいいよね。でもこれもけっこう種類が…。あ、にんぎょうとか!…は、だめだ、怖くて渡せない。これはお母さんにお土産として買って行こう。

「おっ、ま、え…!」
「へ、」

エスカレーターがひとつ上の階に運び上げてくれたのと同時に視界に入る赤。足元のニューラと目が合ってわたしはさっと血の気の引く思いがした。

「し、シルバー…」
「おまえ!約束破っておいてよくもまあ、のこのこと俺の前に…!」
「ひえー!ごめんなさい、忙しかったんですわたし…っ!」
「…なに、」

殴られるかと思って瞬時に身がまえるけれどその衝撃はなかった。恐る恐る目を開ける。眉間に皺を寄せた彼がわたしの顔をじっと見ていた。まるで品定めでもするかのように(うわ、くまとかできてるのに見ないで…!)その視線が上下に行ったり来たり。

「お前、痩せた か?」
「え、そ、そう かな」
「…顔色、悪くないか?」
「あ、たぶん、寝不足」

体調管理もできないなんて情けないです。へらっと笑って見せると彼の眉間の皺は深くなった。徐にニューラを小脇に抱えると(あ、かわいい)彼はわたしの手を引いて歩き出す。

(え、わ、ちょ!)

なにをするんだと抗議の声を上げればうるさいと怒られる。仕方ないのでもつれる足を懸命に動かして彼に引いて行かれると、ついたのは6階、休憩所を担うスペースの設置された広い空間だった。カウンターのお姉さん以外に先客はいない。それをいいことに真ん中にどっかり腰を下ろすと彼はわたしも隣りに座らせた(もちろんニューラも下ろされる)。そしてもう一度わたしを見てから彼は立ち上がる。

「ちょっと待ってろ」

そう言って離れてしまった彼が戻ってきたのは本当にちょっとの間だった。差し出された手にはジュースの缶がひとつ。

「え、…?」
「飲め」

ぶっきらぼうに言われ、押し付けられたそのひんやりしたジュースが、なんだかとてもキラキラしているような気がした。特別好きってわけじゃないけど、なんだか今は大好きな気持ちだなんてバカみたいなことを考えてプルタブを引く。

「調子悪かったのか」

ほどなくして彼はわたしを見ずに言った。ポケモンフードを宛がわれたニューラに視線をやっているようだった。調子が悪かったといえば悪かったような気がするし、そうでなかったような気もする。沈黙を保ったままでいると彼は肯定と受け取ったのか、しっかりしろよなと呟いた。

「で、なんでこんなとこにいたんだよ」
「あー…約束破っちゃったから、なにかお詫びに買って行こうと思ってたの」

なに買うかはまだぜんぜん決めてなかったけどね。そう付け足すとシルバーはそうか、と答えた。それっきりだった。

「ごめんね、約束破って」
「ムリされる方が面倒だ。勝負はいつでもできる」
「でも、待ってた、でしょ?」
「……」
「ごめん」
「…」
「シルバーのこと考えてたら、いろんなこと忘れちゃった」

そう呟いたらようやくこっちを振り向いてくれたシルバーの顔が信じられないくらい真っ赤で、なんだか、好きだなって思った。ねえ、約束破ってごめんね。その上にまだわがまま言うけど、許してね。ねえ、

もう少しこのままでいませんか
(強張ったその手をぎゅっと握ったら)
(世界がまるでキラキラしているようよ)
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