▼ ↑豪炎寺修也

さほど切れもしなかった息を一度長く吐く。彼女はただ夕日を横側から受けながら、手すりに寄りかかり下をぼんやりと見ていた。ぬるい風がその髪をさらさらと靡かせていく。
一歩、また一歩確実に距離を埋めるように俺は進んだ。もう少しで触れる、というときに彼女はそっと振り返った。

逆光でよく見えないが、彼女はただ無表情だった。

「ここで、見てたんだろう。 ずっと」
「嫌いよ、豪炎寺くんなんか大嫌い」
「それでもいい」
「わたしね、昔スポーツに負けたの。スポーツに男取られたのよ、笑っちゃうでしょ」


誰でもよかったのよ、ただ偶然豪炎寺くんだったってだけ。恋愛に現抜かしてだめになってく男が見たかったの。なのに豪炎寺くんはぜんぜん構ってくれないし、泊まってもくれなくなった。だからむかついたの、どうせって思った。でもここでサッカーする豪炎寺くん見たとき、かっこいいなって思ったよ。サッカーしてる豪炎寺くんが一番かっこいい。だからわたしは、豪炎寺くんはやめる。じゃあね。

そう言って踵を返す彼女の腕を必死で掴む。思っていたよりも簡単に彼女を引き寄せることはできた。しかし彼女の視線は俺にはない。

「いい加減こっち向けよ、」
「あのねえ、君にはわからないだろうけどわたしは忙しいのよ?」
「少しくらいいいだろ、俺の話しを聞けよ」
「…豪炎寺くんってそんなに強引キャラだったの?」
「あんたに嫌われたくないから猫被ってた、あんたもだろ?」
「は、ちょ、…な、に それ」

俺を振り回すときのあんたはぜんぜん楽しそうじゃなかった。ぜんぶ自分のアクション、エスコート。だから余裕の、嘘の笑みを貼り付けたままでいられた。なんの変哲もない、自分が脚本を手掛けるストーリーの中で、あんたの思惑通りの動きしかできない俺はおもしろかっただろ?そしてそれ以上に退屈だっただろう?

「好きだ、」
「なっ…!」

こんな展開、あんたの脚本にはなかっただろう?オマケと言わんばかりににやりと笑ってやると彼女のぽかんとした顔が一転して真っ赤になる。ああ可愛い、こんな顔もできるんじゃないか。

「悔しいなら噛みついてみろよ」

驚きの余り声の出せない彼女は、必死になって俺の腕を掴んでいた。その唇からはむかつくとかわけわかんないとか可愛くない言葉が溢れていたが、それでも俺たちの影はひとつだった。


舞台裏のシルエット
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