▼ ↑豪炎寺修也

彼女からの連絡がぷっつりと途絶えた。もちろん不思議には思ったがこちらからのアクションはない。気まぐれな彼女のことだ、忘れた頃にふっとあの悪戯っ子のような笑みを浮かべて誘ってくるだろう、と。そればかり考えていた。本当に不思議だ、俺が彼女を忘れるには当分の歳月が必要らしい。
最後に会ってからずいぶん経った、と思う。そんなもの一々記憶なんてしてないからわからないが、ずいぶん…数字的に言えば一ヶ月は経ったはずだ。それなのに彼女からのコールは鳴らないまま。忘れよう忘れようと思えば思うほど俺は彼女を思い出したし余計に意識をした。今日なんか絶好のシュートの場面で大きく空ぶって転んだんだから笑える。ぽかんとする俺以上にメンバーのあの口の開けようは笑えたが。

これはすべて彼女の、存在のせいなのだろうか。もしも本当にそうで、このままの現状が続くなら俺は彼女を俺に繋ぎとめなければならない。なぜならこのままだと俺が俺でなくなってしまうからだ。

…果たしてそれができるだろうか。それが最近の俺の悩みだった。

「でー …っておい、豪炎寺聞いてんのか?」


肩を叩かれてハッとした。眉間に皺を寄せてらしくない顔をする円堂がどうかしたのかと覗き込んで来る。

「ああ、いや、なんでもない」
「そうかあ?お前なんか最近変だぞ?」

悪い、と顔を背けると円堂はそれ以上は追及しようとはしなかった(それはもう気になってますって顔をし続けてはいるが)。

「だからさ、明日の練習は、」

そこまで言いかけて円堂は言葉を止めた。何事かと顔を上げると視線が一点のまま止まっている。なんだ、なにかあるのか?と目で追うと一組の男女がいた。円堂はその女の方を見ているらしかった。やがてその男女と俺たちがすれ違う。その際、余りにも俺たちが凝視しすぎたせいで男の方が女に知り合いかと尋ねるのが聞こえた。そのときになってようやく視線が絡み合う。女は俺を一瞥しただけで知らない、と答えて通り過ぎてしまった。

「なーんかあの姉ちゃん、見たことあんだよなあ」

どこでだったかな、と男女の背中にまだ目をやる円堂の呟きが聞こえたが、俺はどうしても答える気にはなれなかった。

「けど知らないって言ってたし、気のせいか」

頭の後ろで手を組みながら止まっていた足を動かした。置いていかれないように歩き出した俺の足はなんだかぎくしゃくしていて自分で見ててもぽんこつロボットかなにかのようで笑えた。

「腹減ったなー」

さっきのことなんてまるで忘れてしまったかのように円堂が言う。ああそうだな、そうだよ。俺は忘れられなかったけれど。彼女が知らないと言えば知らないんだ。それは覆せないのだと、影に縫うように胸に刻んだ。


(知らない、か)
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